プーチン大統領という重し

ウクライナ侵攻問題、落とし所を探るのが難しい。今回はプーチン大統領が完全に読み間違えたように思う。
温暖化対策で石油や天然ガスへの投資が減り、先進国の予想を超えてそれらの採掘量が減った。化石燃料の消費を減らしたいけどそんなに急減だと困るヨーロッパ先進国。

プーチン大統領はこの機を見逃さなかった。化石燃料不足であえいでいるヨーロッパ先進国は、ロシアに強い態度に出られないだろう、もしできたとしてもそれは一時的なポーズに過ぎず、すぐロシア産の天然ガスを手に入れるために笑顔で握手を求めてくるに決まっている、と踏んでいたのだろう。

ウクライナの首都を電撃制圧できていたら、プーチン大統領の読みどおりに進んだ可能性がある。首都にロシア軍が迫ったとき、ヨーロッパ各国はもはや諦めモードだった。ロシアによるウクライナ併呑を事実上認め、さっさとエネルギー事情を改善する交渉に入るしかない、という空気が流れていた様子。

しかしここでウクライナ人は踏ん張った。首都は陥落しなかった。むしろウクライナ国民の士気は非常に高まり、反撃の攻勢を見せ始めた。他方、長期戦を想定していなかったロシア軍は兵站(食料や武器の輸送)が十分でなく、兵士も何のために攻め入ってるのか理由が分からず、士気が上がらない。

士気の圧倒的な差で、ロシアはもはやウクライナ併呑なんてことは無理。それどころか占領した土地の支配も難しい情勢。戦死者も増え、増員するために一部動員令を発したら国民のウケが悪い。しかし兵力増強しなければウクライナがすべての土地を奪還しそうな勢い。プーチン大統領は追い込まれつつある。

他方、プーチン大統領はなぜロシア国民にそれなりの支持があるのだろうか?あれだけ強権的かつ独裁的なのに。
大きな理由は「石油と天然ガスの利益をロシア国民に広く分かち与えるシステムの構築と維持に成功しているから」ではないか。

石油や天然ガスの産出国は、一部の人間だけが利益を貪り、それを不満に思う勢力が反乱を起こし、国が乱れる、という構図が成立しやすい。ソ連崩壊後のロシアもそうなりかけていた。プーチン氏はその事態をうまく収拾した。

エネルギー企業の稼いだお金がロシア全土に行き渡るよう、それによりロシア経済が安定になるよう舵取りした。プーチン氏がロシア国民から支持されているのは、プーチン氏の剛腕がなければそんなことは達成不可能だと知っていたからだろう。

しかしウクライナ全土が奪還される事態になると、プーチン大統領も窮地に立たされる。失脚の可能性が出てくるだろう。たが、プーチンという重しがなくなったら、「エネルギー販売の利益をロシア全土に」という仕組みを維持することは可能だろうか?

エネルギー企業の経営者はプーチン大統領が恐くて言うことに従っている。そのおかげで、エネルギー販売による収益がロシア国民に行き渡るシステムが維持できている。しかしプーチン大統領が失脚したら、エネルギー企業の迷走が始まる恐れがある。それこそヨーロッパ企業の餌食になるかも。

ヨーロッパにエネルギーを販売できないことがロシアの経済的苦境の原因になってることを利用し、プーチン大統領失脚のあと、ヨーロッパ企業が自らに有利な契約を迫る恐れがある。すると、ロシアはエネルギー主権を失い、ロシア国民に収益は行き渡らなくなり、国民は貧しくなるかもしれない。

すると、ヨーロッパ企業と組んで甘い蜜を吸うエネルギー企業の人々と、貧しくなったロシア国民とに国が分断され、ロシアは内戦の危機に陥るかもしれない。プーチン大統領という重しをどけることは、そうしたリスクをもたらす恐れがある。

しかし、ウクライナ国民の士気は非常に高く、対してロシア兵の士気はかなり低い様子。ウクライナからロシア軍が追い出される可能性が出てきている。もしそうなると「強いロシア」を演出することによって政権を維持してきたプーチン大統領の政治基盤が失われ、失脚の恐れが出てくる。

もしアメリカの政権がブッシュ親子みたいな大統領だったら、プーチン大統領の失脚と同時に欧米エネルギー企業にロシア産エネルギーを支配させることを目論んだかもしれない。もしそうなったら、ロシアは大混乱。ただ、今は民主党バイデン大統領だから、抑制的になる可能性がある。

どこらへんに落とし所を見つけるか。下手なことをするとさらなる世界的混乱の火種を生みかねない。ウクライナ全土回復の可能性が出てきた今、出口をどうずればよいのか、世界の首脳は頭を悩ませていることと思う。

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