大企業に農業を任せれば効率化する?

大企業に任せてしまえば農業は効率化する、という意見は根強い。それに関連して、興味深い話を聞いた。
栗和菓子屋さん。農家が高齢化し管理できなくなった栗園を引き受け、社員が栽培管理。しかし、条件のよい栗園以外は頼まれても断るようになったという。理由は人件費。

企業が農業をする場合、最低賃金以上を保証しなければならない。しかしそうすると、農家が作る栗より高くなってしまう。なぜそうなってしまうのか。農家は自分の人件費のことを考慮しないで安く売っているから。つまり、今の農産物価格は農家の自己犠牲のおかげで安く済んでいる。

もし農家がみんな農業をやめてしまい、企業が農業をやるようになって、もちろん最低賃金以上を保証するならば、農産物の価格は今以上に高くなる可能性がある。
しかしここで疑問が一つある。海外では企業化した大規模農業があり、非常に効率的に安価に農産物を生産している。日本でもそうしたら?

ところが日本でそれは難しい。日本は狭くて山がちな土地。アメリカやブラジルのように、地平線まで同じ調子の平地なんてところはほとんどない。このため、少人数で広大な面積の農地を確保すること自体がそもそも困難。すると、効率化することが非常に難しい。

それでもまだしも、野菜などの園芸作物は単価が高いので、企業が参入しているケースがある。しかしコメでは、もともと農家だった人が企業化しているケースを除けば、大企業がコメを手掛けるケースはほとんどない。なぜか。コメは安すぎて儲からないから。従業員の給料を払えないから。

もちろん、コメを生産している企業もある。しかしそれは上述したように、もともと農家だった人が始めたものがほとんど。社会状況が変わればまた話が違ってくる、という長期的視野に立って、踏ん張っているところが多い。しかしこうしたところも、条件の悪い田んぼは引き受けなくなっている。

2000年代に入ってから、多くの企業が農業に関心を強め、参入してきたが、ビックリするくらいコメに手を出す大企業は見当たらない。野菜ばかり。コメの単価が安すぎて、従業員に給料を払うメドが立たないためだろう。

逆に、大企業でもやっていけそうな平らな場所、例えば新潟平野や北海道のような広大な農地では、農家も儲かるから農業をやめていない。企業が参入する必要もない。結局、農家は、最低賃金以下でも踏ん張って働いている人がかなり多い。農産物価格はそれに頼った金額になっている。

農家の生活のことを思えば、そうした自己犠牲にいつまでも依存するのはよくないかもしれない。だとしたら、最低賃金以上の収入が入るようにすべきだろう。すると、農作物は高くなる。

「企業に任せれば農産物は安くなる」というのは、部門によってはその通りになる場所もあるかもしれないけれど、そうしたものはあまり多くないように思われる。農家が非効率と考えるのは、根拠がない。むしろこんなに効率よく働いてくれている人もいないかもしれない。いろんな誤解が農業にはある。

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