子どもからの全幅の信頼にどう応えるか

子どもって、親に全幅の信頼を寄せてくる。こんなにも信頼を寄せてくれる存在に出会ったことのない親は、この子のために何でもしてやろう、という気になる。その感情が親子という、特別な関係を作るのに大いに貢献しているように思う。しかしこれは、両刃の剣である点にも注意が必要。

「この子のためになら何でもしてやろう」が、いつしか「この子に認めてもらおう」になってしまうことがある。子どものために尽くすことで、「自分のためにこんなにしてくれてありがとう」と、子どもから感謝されたくなってしまう。それが間違いのもとになってしまうことが。

子育てで重要なこと。それは、やがて親がいなくなっても生きていける力を子どもに身に着けてもらうこと。それを最優先事項と考えると、子どもの望むものを全部提供することが必ずしもその方向に一致しているとは限らない。

「千と千尋の神隠し」で湯婆婆は、赤ん坊をいつまでも赤ちゃん扱いして、外には出させようとしない。いつまでも自分の手で育てられないと何もできない存在でいてほしくて、何でもかまってしまう。それをするから坊は、自分の望みがかなわなければ泣き叫び、乱暴するだけの子どもに育ってしまった。

人間はどうやら、自分を頼りにしてくれる存在がいると嬉しい生き物らしい。だから人間は、無力な子どもを育てようという意欲を持てるのだろう。しかし「頼りにしてくれる存在」のままで子どもをおいておこうとすると、子どもは無力なままにされてしまいかねない。親がいなくなれば生きていけなくなる。

いつまでも無力な、自分を頼らなければ生きていけない存在でいてほしい、という感情がもたげてくるのを、うまく抑えることが親には求められる。「子どものために」必死になって世話することをもって、子どもを無力化することの免罪符にはならない。それはやはり親の責任。

子どもが親のいない世界になっても生きていけるようになるには、自ら動き、自ら学び、自ら挑戦していく能動性が必要。その能動性を、子どもが親に全幅の信頼を寄せている間に、身に着けてもらう必要がある。

「この子は私が言わないとすぐサボる」「言わなきゃ絶対宿題をしようとしないくせに」という言葉をよく聞く。こういう言葉ばかり聞いていると、子どもはまるで能動性なんかなく、言わなきゃ動かない、受動的な生き物のように思えてしまう。しかし。

小学校に入る前の子どもは、どの子も能動的。多くの親御さんが「うちの子、天才じゃなかろうか」と驚かされる。図鑑の恐竜をみんな覚えたり、ポケモンの名前をたくさん覚えたり。その記憶力に驚かされた親は多いはず。子どもはこのように、ものすごい能動性で学習する。

なのに小学校に入ってしばらくすると、多くの子どもが学習意欲を失ってしまう。それは恐らく、親が先回りするからだ。「宿題やったの?」「勉強しなくて大丈夫?」子どもはそうやって先回りされるとウンザリする。先回りされたことに手を出すのがイヤになる。

「宿題はしなくていいの?」「今、やろうと思ってたのに、言われたからやる気なくした!」「何言ってんの、言わなきゃずっとやらないくせに!」
このやりとり、いろんな家庭で聞かれるやりとり。子どもの発言はただの言い訳のように思われる。でもこれ、私は本当だと思う。

子どもは親に驚いてほしい。自分の成長に。できなかったことができるようになったことに。知らなかったことを知るようになったことに。小学校に入るまでは、親はそうしてくれた。「そんなこともできるようになったの?!」子どもはそれが嬉しくてたまらなくて、また親を驚かそうと、能動的に学ぶ。

なのに小学校に上がると、親は勉強が遅れないか気が気でなくなる。それでついつい先回りして注意してしまう。それは親からしたら、あくまで親切心。けれど子どもにしたら大切な楽しみを奪ってしまう行為。親が自分の成長する様子を見て驚いてくれるという、とても大切な楽しみを。

なぜそうなってしまうのか?親が先回りすると、子どもは悟ってしまう。親がもう驚いてくれないことを。先回りするということは、宿題をしても勉強しても、「私が言ったからやったのだ」と、親は自分の功績にしてしまい、子どもの努力に驚かなくなる。楽しみを奪ってしまうとは、そういう意味。

赤ちゃんが寝返りしただけで驚く。お座りできただけで驚く。立ったら驚く。歩いたら驚く。そうして大人は、子どもが何かできるようになったら驚いていたはず。子どもは親の意表に出ることが嬉しくて、親を驚かすのが楽しくて、次なる成長を遂げようとする。それが学習意欲の大きな要因でもある。

親は先回りせず、驚くとよいと思う。すると子どもは能動性を取り戻す。驚いてくれるのが嬉しくて。能動的に動くことで親を驚かしたくて。
子どもがいかに能動的に楽しく動けるか。そこに意識をして、子育てすると、いろんなことが変わってくるように思う。

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