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自分をエンタメ化するということ

巷では、市販薬ODが流行っていたり、トー横界隈がどうこうと話題に上がっている。
家や学校から抜け出し、行く当てもなく辿り着いた先が歌舞伎町の高層ビル「新宿東宝ビル」周辺の路地裏。大阪だとなんば戎橋のグリコの看板前、通称「グリ下」なんてのもある。居場所がなくなった若者、または未来になーんの希望も持てない若者、はたまたホスト狂いの若者やパパ活狙いの若者が、今日もトー横界隈でODキメながら生きている。

決してODを推奨してるわけではないが、かといって「これだから今時の若者は」と見放す気にもなれない。居場所がなくなって彷徨う若者なんて昔からいた。SNSによって可視化され、その実態が明らかになったのだ。


私の闘病用のアカウントには、おすすめの欄にODやホスト狂いの女の子の「病み垢」が流れてくる。気になっていろんな病み垢を見るが、まあ女の子の逞しいこと。ストゼロとブロンの空き瓶にピースサイン添えて写ってる子や、パパ活で稼いだ諭吉をずらっと並べて、担当に貢いできます!と意気込んでる女の子。私、こういう子見るの、好きなのよね。悪趣味なのは自覚してるが、なんかこう、活気に溢れてる感じがいいじゃん、て感じ。

こういう、自分をSNS上でエンタメ化して楽しんでる子を見るのが好きだ。先のことなんて考えない、今を楽しく生き抜いてやる!という気概が感じられる。

もう一度言うが、決してODやパパ活を推奨してるわけではない。本当に悩んで苦しんでる子だって当然いる。しかし、自暴自棄が一周回ってエンタメと化している女の子って、常人とは思えない何かの強いエネルギーが感じられて、なんだか目が離せないのだ。

自らをエンタメ化、の代表格と言えるのが、小説家で女優の鈴木いづみ
彼女も薬物中毒で、薬をキメながら日々を生きてきた。そんな彼女の書く小説やエッセイの、とち狂っていて、それでいて鋭い切り口で、ものすごく研ぎ澄まされた感性で書かれた世界観が持つ激しいエネルギーに、大学生の私はただただ圧倒され、彼女のファンになった。

何でかは分からないが、彼女の書く小説やエッセイを読むと、サイケデリックで派手な原色のマーブル模様みたいなものが目に浮かぶのよね。小説に色なんて無いはずなのに、彼女の小説には色がある。毒々しいまでに眩しくて、規則性もへったくれもない、何とも言えない模様で描かれた抽象画。

絶望を明るくポップに蹴っ飛ばす。

何言ってるか分かんねえよ、と思うかもしれないが、私の脳みそじゃこれぐらいの感想しか書けない。気になった人は直接読んで欲しい。

鈴木いづみコレクション 1 ハートに火をつけて!

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山田詠美「肌馬の系譜」の中に収録されている短編「ジョン&ジェーン」は、今のトー横界隈を題材に書かれている。
ジョン・ドゥ(男の未明不元人)とジェーン・ドゥ(女の未明不元人)による、社会に適合することを諦めた二人の物語。本名も知らない(女性の本名は不明のまま)、素性も詳しく知らない、ただ、この街に暮らしているという共通感覚だけで始まる恋愛。まるで映画のワンシーンの様な展開もあり、二人の恋愛は明るく、美しくもあり、そこに差す混沌とした影の暗さのコントラストの描写が見事な物語。
本名も素性も知らない人らの繋がり。まるでSNSみたいではないか。トー横界隈でODキメて自撮りSNSを上げている女の子は、SNSのハンドルネームが彼女たちの固有名詞なのだ。


ここまで書いて、不謹慎なこと書いてるなという自覚はある。
実際に東宝ビル関係者や医療従事者にしたら迷惑な話だ。しかし、あそこにたむろしている若者は、家や学校に居場所を見つけられず、また精神疾患などで環境に適応できない人たちが、あの場所に安住の地を求めてやって来るのだ。それって彼らのせいだけなのか?彼らを追いやった大人や社会が、あの結果を呼び寄せたのだ
あの光景やニュースを見てネットで「社会のゴミ」と吐き捨てる輩もいるが、安全圏から匿名で他人をゴミ呼ばわりするその人間性こそがゴミでは?と私は思う。

私は別に批判も擁護もする気はない。ただ、あそこにいる彼ら彼女らの、世の中に絶望しながらもしぶとく逞しく、エンタメのように生きている様に、温室育ちの軟弱な凡人には想像がつかない激しく強いエネルギーを感じずにはいられないのだ。




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