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村上春樹で英語を極める~世界の終りとハードボイルドワンダーランド~(3)

3 ハードボイルドワンダーランド (雨合羽、やみくろ、洗い出し)
【要約】
 太った女は「私」に雨合羽と長靴をつけさせ、懐中電灯を持たせ私を送り出す。暗闇を流れる川の上流にある大きな滝をくぐると、依頼者の研究室があるという。
「私」が何とか進んでいくと、男が ”やみくろ” を警戒して迎えにくる。この男が「私」に、研究データの暗号化を依頼する、太った娘の祖父である老学者である。
「私」はデータ暗号化の準国家「システム」に属しており、「システム」はデータをハッキングする「ファクトリー」という闇組織と暗闘を続けている。
 老学者のデータは世界の発展・存続に重要なものらしい。
 そのデータを「計算士」である私が、「シャッフル」という特殊手法を使って暗号化することを依頼される。
 「私」が聞こえない声を発する太った娘のことを聞くと、老学者は、事件のために「音抜き」を娘にしていたことを忘れていてあわてる。

【日英表現】
訪問した建物の一室で、太った女に、目的地を告げられ注意事項を聞かされてから、急に部屋から桎梏の暗闇に押し出された「私」が戸惑う場面

  All at once, I was plunged into darkness, literally, without a single pinprick of light.  I couldn't see a thing.  I couldn't even make out my hand raised up to my face.  I stood there dumbfounded, as if I'd been hit by a blunt object, overcome by the chillng realization of my utter helplessness.  I was a leftover wrapped in black plastic and shoved into the cooler.  

translated by Alfred Birnbaum

扉が閉まると私は完全な暗闇に包まれた。針の先ほどの光もない文字通りの完全な暗闇だった。何も見えない。顔の前に近づけた自分の手さえも見えないのだ。私は何かに打たれたようにしばらくその場に呆然と立ち尽くしていた。まるでビニールラップにくるまれて冷蔵庫に放り込まれそのままドアを閉められてしまった魚のような冷ややかな無力感が私を襲った

p.34 『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』(3)

ふむふむ。この overcome は過去分詞で、私の状態を形容しているよね。
・・・・・ところが、overcome = 「~に打ち勝つ、~を克服する」と覚えていたので、英文の意味がすぐには取れなかった。(完全な無力感に打ち勝たれる?!!!)

ここで、over の根本的な意味をよく考えてみる。(4月8日、noteにアップした「多義語overの意味の展開、参照)この over は「~を覆う」というイメージであり、無力感がやってきて「私」の上を覆った、というイメージである。ここに「支配力は上」というメタファーを考えれば、私が無力感におおわれて、無力感に支配されている意味が明らかに見えてくる。

 再度、英和辞書を引いてみると、「~で圧倒する(通例受け身で用いる)」という意味がちゃんと書いてあった。覚えてはいなかった。
 例文は、We were overcome by the heat. 私たちは暑さで参った。
(E-Gate英和辞典)

 言葉の持つ意味の広がりをすべて日本語の訳語で覚えることは不可能だし、効率も悪い。このような多義語に対処する方法を薦めているわりに、すぐに応用することができなかったところが残念である。

 

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