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いつか紙の本を出したい。 21歳、図書館や本屋さん、喫茶店が好き。

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その古びた喫茶店が、とても好きだった。 初めてその喫茶店を訪れたのは、去年の6月のことで、5メートル先もろくに見えないほどの土砂降りだった。 傘を畳んで、重たそうな扉の取っ手を引くと、ふわっと暖かい空気が私の冷え切った指先や頬にしん、と染み込んできた。 「すごい雨でしたから、もう閉めようかと思っていたんですが。ようこそいらっしゃいました、お好きな席へどうぞ」と、頭髪や眉までもう真っ白の、優しそうな店主がニコニコして案内してくれた。 私は茶の革張りのソファ席を選んだ。座るとお

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    • コトバや

      「勇気……勇気を1つください」 消え入りそうな声で私はセラピストに答える。 「勇気ですね。それでは、こちらの魔法瓶の中からもお1つ、言葉を選んでください」 魔法瓶は20本ほどあり、まとめてトレーに並べられている。赤や青や紫、緑とカラフルで、それぞれ大きさが異なる。瓶本体と、付いているタグにも何やら言葉が書かれているそれを、私は順にじっくりと見つめた。 「温かく、抱きしめて」「全てを、包み込む」「何度でも、立ち上がる強さ」「新たな挑戦へ、目覚める」「ゆったりと、落ち着いた」……

      • 華金プリンセス

        「お疲れ様でぇ〜す!!!!!」 時計の針が17時を指したその瞬間、私は脇目も振らず鞄に荷物を詰め込む。 コートを掴み、華金ワールドへ飛び出す。 そう、今日は金曜日。土日休みのビジネスマンたちが最も愛している夜なのだ。 近所のスーパーヘ急ぐ。家飲みで一番重要なポイントは、最小のコストで、自分の食べたいもの、飲みたいものを心ゆくまで堪能するために食材をしっかり選ぶこと。ここのスーパーの惣菜はクオリティが高い。 ん…?3割引……!?それも炭火焼き鳥。ねぎま、つくね、軟骨……最高だ

        • 春、君と別れる

          「お互い好きなんだから。そうでしょう?無理して別れることないって、俺はまだここにいるんだし」 この不毛な論争を、もう何度繰り広げたことだろう。 彼と出会ったのは、つい先月のことだ。マッチングアプリなんか、自分には一生縁がないと思っていたのに。 身長が何センチだとか年収がいくらでとか、好みのタイプやあとは凝った趣味なんかが文字になって羅列される退屈な画面を眺めながら、右に左に指を動かす。 ―誰かに出会いたい? そうなのかもしれない ―恋がしたい? きっと限りなくそれに似た

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