短編「アイスティーの中の妖怪」


 目の前に置かれたアイスティー。

どことも言えない適当なチェーン店のカフェで、アイスティーを頼んだ。

店員さんに手渡され、一瞬、コップに目をやった。ただのティーだけど、アップルてぃのように見えて、腹の底がふるるとした。

一人席を選び、コップをコトリと置いて、テーブルの触り心地を確認した。
すべすべとまではいかない、なんとも言えない心地。椅子に腰掛けながら、周りに居座る人たちを観察する。

勉強している大学生くらいの人。

仕事をしているようで、ゲームをしている人。

スマホにずっとつきっきりの人。

そうして、私は今から、コップを見つめる変な人になるのだろう。

アイスティーの中に、妖怪がいた。

黄緑のような肌に、まるまるした体、赤ちゃんのようだ。プリプリと起こっているように見える。耳が片方しか付いていないが、その分とても大きい。

「何をしているの?」

あたまのなかで、話しかけてみた。

「冷たい冷たい!」

会話がいまいち噛み合わない子だった。
妖怪にも色々だと思っている。
会話が成り立つ子、全く一方通行な子。そもそも話さない子。

「コップから出たら、暖かいよ。外は暖かい風が吹いている。」

ちょうど、暖房が少しあたる席だったので、提案してみた。すると妖怪さんは、コップをするりとすり抜けて出てきた。今までの寒さが嘘のようだと、喜んでどこかへ歩いて行った。



さて、私はこのアイスティーを今から飲まなければいけないのか…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?