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うつ病と認知症は、とても近い


うつ病は認知症のリスクを
ほぼ 2 倍にする

認知症が起こるとされる原因の中で、うつ病は特に大きな要因です。
「うつ病の存在は認知症のリスクをほぼ 2 倍にする」というデータがあります1)。

私の別の記事でも解説しているとおり、糖尿病や高血圧もうつ病の原因となり得るものですが、高血圧や糖尿病は認知症のリスクを1.5~1.6倍程度にする、とされる報告があります。その報告でうつ病は、1.9倍です2)。

つまり、こうした高血圧や糖尿病といった生活習慣病よりも、うつ病の方が認知症を引き起こす観点ではリスクが高いという見方ができます。このリスクは、特に、血管性認知症やレビー小体型認知症で強いとされます。


認知症の症状には
うつ状態がよくみられる

認知症の原因にはうつ病があることはわかりました。が、それとともにわかっているのが、「認知症の症状の一つとして、抑うつがある」ということなのです。

このことを示すデータとして、もっとも大きな数字は「レビー小体型認知症」にあります。レビー小体型認知症の人では、なんと60%の確率で抑うつ状態がみられ、30%で病気として診断された「うつ病」を合併しているといいます3)。

その他にも、アルツハイマー型認知症では、初期の症状として抑うつが30~50%に起こり、うつ病の診断は15~25%程度もされていると言われています4)。さらに、古めのデータですが、血管性認知症でも40%以上という低くない頻度でうつ病がみられると報告されています5)。

実は、認知症とうつ病には
共通のメカニズムがあった

これほどまでに密接に関係している、うつ病と認知症。
実は、うつ病と認知症の2つは、メカニズムとして共通点があると考えられています。具体的には、「脳神経の炎症」や「脳由来神経栄養因子(Brain derived neurotrophic factor;BDNF)」です。

うつ病や認知症ではともに、「サイトカイン」と呼ばれる細胞から分泌されるタンパク質が持続的な炎症を引き起こして、脳内の「ミクログリア(脳にある免疫細胞の一つ)」の機能が過剰に強くなったり弱くなったりしていると言われています。
また、脳内では、「脳由来神経栄養因子(BDNF)」という物質があります。BDNFは、神経細胞の成長や発達を促進するための物質で、学習や記憶などに一役買っています。このBDNFの機能が、うつ病と認知症ではともに低下しているとされます。

うつ病と認知症は似ている
いろいろな角度から状態を見て

このように、うつ病と認知症は、つらい症状としても、体の中のメカニズムとしても、似ている部分が多くあり、2つは複雑に関係しています。うつ病が原因で認知症になったり、逆に認知症の症状としてうつ病の内容が含まれていたり。

そのため、この2つの区別や診断をつけることが実はけっこう難しいのです。一見すると「ストレスが原因でうつ状態になった」という場合でも、実はその背後に血管性認知症があって、それによって抑うつやうつ病の症状が現れることや、認知症と診断された人がうつ病も患ってしまった、というケースは少なくありません。

うつ病と認知症に対しては、それぞれに適切な治療があります。心の状態、認知機能の状態、身体の状態、日々の生活について何がどれくらいできないかの状態など、いろいろな角度からしっかりと状態を確認し、うつ病なのか、認知症なのか、その両方なのか、を見極めたうえで、治療していくことが大切ですね。

1)Prince M, et al. World Alzheimer Report 2014. Dementia and risk reduction: an analysis of protective and modifiable risk factors. London: Alzheimer's Disease International.
2)Livingston G, et al. Lancet. 390(10113):2673-2734, 2017.
3)Borroni B, et al. Arch Gerontol Geriatr. 2008 ;46(1):101-6.
4)Olin JT et al. Am J Geriatr Psychiatry. 2002 ;10(2):129-41.
5)Hachinski VC,et al. Neurology. 1993;43(10):2159-60; author reply 2160-1

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