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認知症とアルコール


お酒を飲むと認知症にならない?
実は「少量のアルコールを摂取することは認知機能に良い影響を与える可能性がある」というデータがあります。飲酒と認知症発症について欧米で研究を分析した結果によると、アルコールを少量摂取している人では、認知症のリスクが0.72倍、アルツハイマー病のリスクが0.75倍、血管性認知症のリスクが0.72倍になるという結果が出ました1)。つまり、少なめのアルコール摂取によって認知症になるリスクが25%程度下がる可能性があるのです。

お酒を飲むと認知症になる?
一方、アルコール摂取量と認知症のリスクとの関係についての分析では、「1日あたり38g以上のアルコールを摂取すると認知症のリスクが高まる可能性がある」という結果がでています2)。この研究によると、1日あたり12.5 gのアルコール量までが認知症になるリスクが下がる可能性もあり、中でも1日あたり6 gという少なめのアルコール摂取の場合に認知症のリスクを下げる可能性が一番高いということです。しかし、一定以上のアルコールをとると認知症になるリスクが上がるという結果が、メタ解析(複数の臨床試験の結果を統合して分析した結果)として出たことは重要です。

参考)20gのアルコール量の目安
・ビールまたはチューハイ(度数5度)で500ml
・ワイン(度数14度)で180ml
・日本酒(度数15度)で180ml(1合)
・焼酎(度数25度)で110ml
・ウイスキー(度数43度)で60ml

認知症を予防するためにお酒を飲む?
これらの結果はどう考えれば良いのでしょうか?「認知症の予防のために毎日少しアルコールを飲もう」という行動はありなのでしょうか?答えはNoです。
WHOは、一定量より少ないアルコールの摂取の認知症予防効果は「研究の方法論的な制限」としており、実際に認知症や認知機能低下を予防すると仮定することはできない、と解釈しています3)。つまり、「実生活で毎日少しアルコールを飲んだところで、それが認知症の予防にはならない」ということですね。

お酒の飲み過ぎは認知症のリスク
逆に、アルコールの過剰摂取は認知症になるリスクがあり、「お酒を飲む量を減らす、またはお酒をやめることが認知症リスクを下げるのだ」、とWHOは強調しています。認知症の以外にも、お酒は、血圧や腎臓、肝臓などに悪影響を及ぼすことが知られていますので、お酒の量は認知機能以外の健康にも関係します。

酒は百薬の長、されど万病の元
お酒は、食欲を増進する、血行を促進する、ストレスを緩和する、といった効果があります。「酒は百薬の長」という言葉があります。これは、中国古代の史書である『漢書』に由来するそうです。一方で、日本の随筆の『徒然草」』には、漢書の言葉を受けて「百薬の長とはいへど、よろづの病はさけよりこそおれ」という記述があります。お酒はどんな良薬にも勝るけれど、万病の元でもあるという意味のようです。
お酒を飲むことは、人との交流や、しばしのリラックスにつながることもありますが、飲む量には気を付けたいですね。

1) Anstey KJ et al. Am J Geriatr Psychiatry. 2009 ;17(7):542-55.
2) Xu W et al. Eur J Epidemiol. 2017 ;32(1):31-42.
3)WHO「認知症リスク低減のための ガイドライン」

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