短編小説【初心者同士】2/3
〜小春の場合〜
私の名前は卯月小春、今年の春にめでたく高校生になりました。
この季節になると、周りから必ず言われることが二つあります。一つは「卯月さんって春生まれなの?」。もう一つは「卯月さんって春っぽくないよね」です。
結論から言います。私は春生まれではなく、秋生まれです。小春という名前は、私の祖父が好きな昔の美人画から付けられました。春とは無関係です。卯月という苗字も、言うまでもありませんが祖先から頂いたものというだけです。
そしてもう一つ、春っぽくない私の見た目とは――。
「ねぇ、なんか寒くない?」
「うん、寒い寒い」
「何で何で?」
「えー、だってー……」
いつもと変わらないこの流れ、この会話。彼女達は窓際後方、私は廊下側後方。教室の後ろ半分で毎日のように繰り返される展開。
「このクラスに雪女がいるからじゃない?」
自習時間だというのに、クスクスと笑いながら私を見てくる六つの目。ううん、三人だけじゃない。教室中から好奇な目がたくさん集まっている。でもね、納得なんです。なぜならば私、本当に見た目が雪女のようなんですから。
色白の肌、長めのぱっつん前髪に、腰まで伸びたストレートの黒髪。まるで雪女の化身です。この姿に白装束なんて着たらもう文句のつけようがありません。あっ、私、黒縁眼鏡をかけていました。完璧なんて言い過ぎでした。すみません。
私がこんな風に「雪女」と揶揄されるのは、子供の時から日常茶飯事です。いまさらどうってことありません。対応の仕方もよく分かっています。ひたすら無視をする、これが一番です。本人達は私を陥れるつもりはないのです。日頃の不満を誰かにぶつけたい、ただそれだけなのですから。
幼い頃から「雪女」が定着している私ですが、そのせいでしょうか。視線は集まるけれど、人は集まりません。あまり口に出したことはありませんが、本当はちょっと淋しいです。それだったらなぜ見た目を改善しないのかって?一度思い切ってイメージチェンジしてみたことはあるんです。そしたらなんと、「雪女」を通り越して「空気」になってしまいました。そこで慌てて元に戻した次第です。
あっ、お昼を知らせるチャイムが鳴りました。お昼ご飯は必ず外で食べると決めている私。入学してからというもの、お気に入りの休憩スペースを探す毎日。今日はどこへ行こうかな?まだ探索していないのは確か……校舎の裏手?うん、今日はそっちの方へ行ってみよう。
校舎裏に来たのは初めてですが、植木や花壇の手入れが不十分で人工の自然と化しています。これは……人避けにはちょうど良さそうです。
あっ、猫がいます。可愛いキジトラです。私の目の前を優雅に歩いています。……校舎裏の奥の方に向かっていますね。一体どこへ行くんでしょうか。キジトラちゃんの行方が気になる私はついていくことにしました。
ツツジの生垣を越え、杉林を抜け、気づいたらちょっとした芝生の広場まで来てしまったようです。木漏れ日の穴場。キジトラちゃんを追いかけたら素敵な場所に辿り着きました。今日のお昼はここで決まりです。早速芝生に座ってご飯をいただきましょう。
「……あんた、誰?」
えっ!先客がいた?ご飯のことしか頭になかった私は、嫌悪感丸出しの声にびっくり。目を凝らしてみると、そこには確かに、芝生の上から私を睨みつける男の子が堂々と寝転がっていました。
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【文章】=【異次元の世界】。どうかあなた様にピッタリの世界が見つかりますように……。