小説 ドラゴンの吐息が夜の闇を漂い、迷子犬が嘔吐

第一部 ベンジャミン
ベンジャミンは朝起きると、横にいる女に張り手打ちした。女はおはようといい、朝食の準備をした。ベンジャミンはその間トイレに行き、コンコンと中に入った状態でノックした。トイレットペーパーに、ベンジャミンが大好きなスヌーピーの一筆描きの絵が等間隔に刻まれていた。これは女がベンジャミンを喜ばそうと思って描いたのである。ベンジャミンはトイレットペーパーを黙って外すと、ウラン、スフィンクス、などと、等間隔のスヌーピーに全く違う名前をつけ始めた。ベンジャミンがトイレから出てくると朝食が用意されていた。陶器のような白い机の上に、シルクのような柔らかい光を反射した白い皿の上に、パンとバターが乗っていた。ばーか!とパンに叫びながらベンジャミンはパンを食べた。ばーか!彼女は黙ってベンジャミンが食べる様子を見つめていた。ベンジャミンはトイレに駆け込み、食べたものを全て便器の中に吐いた。トイレから出てくると、またパンとバターが皿の上に用意されていた。ベンジャミンは黙々と食べた。彼女は市役所に勤めているため、とっくの昔に家を出ていた。薄い生地のカーテンをすり抜けて、透明で優しい朝の光が狭いアパートの一室に注がれている。ベンジャミンは高校教師だった。彼は壊れたおもちゃのようにガタガタ震え始めた。しばらく震えていた。ベージュや乳白色の壁紙に包まれた部屋は森のような静けさに満ちていた。ただベンジャミンのううううううううううという震動音が聞こえてくるだけだ。ベンジャミンは馬鹿になって、家を飛び出して陽の光が降り注ぐ大通りで踊り始めた。ベンジャミン、ベンベンジャミン。ベンジャミン、ベンベンジャミン。踊りながら駅に向かっていた。バンバン鞄を叩きながら駅に到着した。霧が深く立ち込めた頭で時刻表を眺める。なんとか切符を手に入れ、錆と青でペインティングされた駅を抜けると、こんな張り紙が貼ってあった。「愛のシンガーソングライターです。大切に使って、元通りの位置に戻しておきましょう。」張り紙の下には、瞼がガチャガチャしたケバケバしい格好のホームレスが座っていた。ベンジャミンはブブゼラを鞄から取り出し、ぶぶぶぶと吹き始めた。ぶっーーーーーー!ホームレスが噴き出した。ぶぶぶぶぶ、ぶーーーーーーっ!ベンジャミンとホームレスが発する破裂音が辺りに飛び交っていた。ベンジャミンは楽しくなり、一緒に踊ろうとホームレスを誘った。ホームレスは大きなマリオネットのように腕だけ宙吊りでゆさゆさ揺れて、顔にはニヤニヤ笑いを常に浮かべていた。突如、ホームレスの口が開き、「やめろあーー!!うえ、やめろぉー!へへへっ」と怒声を上げた。ベンジャミンはホームレスをそっと元の位置に戻した。ホームレスはまたニヤニヤ笑いながら、「しばき回すぞお前、頭おかしいんか。へへへっ。いや、やめーや言うとるのか聞こえんかった?耳悪いん?へへへっ」と怒鳴った。ベンジャミンは彼の歯垢まみれの前歯を眺めて、そっと奥歯の方に指を突っ込んだ。「ふがっ。やふぇーえ。やふぇーえ。ふぇふぇっ。やふぇーえ。」指を嗄れた口から離すと、爪にごっそり黄色い歯石が溜まっていた。ホームレスは口癖のようにへへへっと言いながらもの凄い剣幕でベンジャミンを怒鳴り散らした。目は大きく開かれ煌々と光っていたが、相変わらず笑っていた。ホームレスが怒鳴り散らしている間、ベンジャミンは指を嗅いだり離したりしていた。臭いに飽きて近くの鉄柵に歯垢を擦りつけると、そのまま駅に向かった。

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