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プリセールス組織の課題:C社のケース

背景

 C社では、大企業向けと中堅企業向けのアプローチをそれぞれ別に考え、今ではスタンダードになったThe Modelの考え方で営業からCSMまでの役割を揃えて活動していました。大企業向けと中堅企業向けを分けた組織としていた理由は、そのアプローチの違いもありますが、同じ組織の場合にどうしても金額規模の大きな大規模案件が優先されて、中堅以下の案件にアサインが回らないという不都合が起きるためです。ここではThe Model(福田康隆著)の営業プロセスに加えて、プリセールスでどの様な工夫がなされていたかまとめたいと思います。

大手企業での課題

 プリセールスの組織を分けて対応する中で、大手企業ではセキュリティの問題や前例が無いことなどから、クラウドベースのシステムの導入がなかなか進みませんでした。大手企業で採用が進まない要因はクラウドベースのシステムであると言うことだけではありませんでした。この時点のSaaSは先進的なユーザーの採用が一巡して腰の重い大手ユーザーにアウトバウンドで販売する必要がある段階に差し掛かっていたので、今までの持ち込まれる案件に対応するという受け身の姿勢ではプリセールスの工数をかけても成約率が上がらない状況になっていたのです。

大手企業での解決策

 大手企業に向けてのプリセールス活動をプロアクティブに進めるために、当時米国で行われていたバリューセリングのアプローチを試験的に採用して効果を見ることにしました。業種別の営業部毎にターゲットアカウントを設定してプリセールスメンバーが中心となっていわゆるバリューセリングの一部であるソリューションマップと呼ばれる物を作成し、作成する中で不明な部分を営業と共に顧客に確認しながら販売機会を見極めるというものです。このソリューションマップには顧客の組織(事業)と適用業務のマトリックスを作り、各々についてシステム稼働状況、競合の有無、稼働しているシステムのベンダー名や切り替え時期、そこでの課題、ビジネスの優先度、さらに自社の発揮できる価値などを記載し、不明な部分については、確認の為に顧客を訪問する中で埋めながら、どこに提案機会があるかを考えるという活動を始めたのです。初年度は当然穴だらけの表でしたが、それでも各事業分野を並べたときに、どの事業部に向けた提案が出来そうかなど優先順位はつける事が出来ました。この段階では顧客を理解出来ていない部分が判明したことが有益であったわけです。2年目、3年目となると会話の進んでいる顧客では年間の提案計画、フォーキャストも組める様になり、顧客によっては社内の会議でこの資料を参考にして投資分野を検討するなどの動きも出て来ました。また、導入に消極的な顧客でもクラウドが一般化し、AWSなどのサービスも採用される中でSaaSの検討が進む様になり、調査してきた内容が提案に活かせる場面も多くなりました。いくつか大きな成約に結びつくケースも出てきて、この活動によって一定の成果は出たと言えます。
 1番の収穫はプリセールスが営業マインドを持って受け身で言われたことに対応するのではなく、営業と対等に話をして顧客にどう提案して行くかのプランから関わる様になったことでした。インバウンド対応のマインドからアウトバウンドで顧客に提案する様になると、プリセールスメンバーの話す内容も一変し、ファンクションベースからビジネスバリューへと変化しました。

中堅企業での課題

 一方、中堅以下のマーケットでは案件の成約率が低く、プリセールスの工数が他国と比較しても掛かり過ぎている点が課題としてありました。中堅企業向けのアプローチでは、大企業向けと異なり、プリセールスエンジニア一人に対しての営業の人数が倍以上になり、大企業向けと同じやり方をすることは出来ません。ここでは、プリセールスのエンジニアはいわゆる「案件対応」以外にも営業が売りやすい環境を整えることも重要な仕事となります。具体的には、営業がデモをしやすい環境を作成する(中堅企業向け営業は自分でデモをして販売します)ことや、そこで使うデモシナリオの整備をしたり、営業が利用する資料の整備や営業へのデモの研修などです。ただ、営業人数が会社の拡大に従って増える中でそれだけでは案件の成約率が上がらない様になっていました。つまり、研修期間だけでは十分に売り方や、提案の仕方を身につけることが難しいくらいプロダクトも複雑になり、提案方法も多岐に渡っていたのです。

中堅企業での解決策

 営業が増員され更に複雑な提案に対応するために、オフィスアワーと称して営業から相談を受けられる時間帯を毎日設けました。これは、案件の成約率が低い理由として、案件をどの様に進めたら良いか、どの様な提案をしたら良いかと言う、案件のアセスメント段階の制度に問題がある事が分かったからです。多くの案件の相談が持ち込まれる中で、なぜこれを聞いておかなかったのか、もっとこうした提案をすれば競合と差別化出来てもっと楽な商談になった、などのケースが散見されたので一つ前のフェーズに関与することで、営業のする質問の質を上げて事前に課題を潰し、成約率も上げることができるのではないかと考えたものです。
 そこで本来プリセールスのエンジニアがアサインされる前段階の営業が案件を見極める段階から相談に乗る活動を始めたのです。これによって、提案が難しい案件の見極め、提案をもっと拡大できる案件でのアプローチ変更、注意すべき案件の確認、更に提案しない判断などを行える様になって、いわゆる案件のアセスメントの精度が上がりました。結果として成約率を上げるための案件精査が行え、サポート内容も適切なものにする事が可能となりました。副産物としてジュニアな営業の育成やオンボーディングの支援としても営業から高い評価を得ました。

 大手企業と中堅企業ではアプローチも異なりましたが、実際の提案事例などを共有して、お互いどのような提案をしているか共有するためのワークショップは定期的に開催して、成功しているエンジニアがどのような提案をしているかを知る機会を作ることで全体の底上げを図っています。

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