見出し画像

5年後、私たちの働き方はどう変わっている? ―At Will Workカンファレンス 参加レポート

2016年に女性活躍推進法が施行されて今年で5年。この間働き方改革もスタートし、さらにコロナ禍によって働き方の変化が後押しされました。過去5年間で私たちの働き方はどのように変わってきたのでしょうか。そして5年後10年後の未来はどのようになっていくのでしょうか。そんなテーマについて考えるため「働き方を考えるカンファレンス2021」(一般社団法人 At Will Work 主催)に参加してきました。

働き方を考えるカンファレンス とは

「働き方を考えるカンファレンス」とは、各界から集ったスピーカー達が働き方をテーマに議論を繰り広げるカンファレンスです。2016年にスタートし、今年で5年目を数えます。主催者の一般社団法人 At Will Workは、代表理事の藤本あゆみさんほか5名の理事によって2016年に設立されました。「働きやすい社会づくり」への貢献をミッションに、働き方に関する事例を共有する5年間限定のプロジェクトとしてスタートしました。

カンファレンス概要

去る2月24日、「働くのこれから - 『働く』は変わったのか?働き方の未来をつくる -」 をテーマにオンラインで開催されました。最終開催となる今年は各界から60名のスピーカー達が集い、熱量のこもった15のセッションが繰り広げられました。その一部模様をお届けします。

リモートワークできる環境は5年前からあった ー整っていなかったのは企業側の「レディネス」

基調講演「これからの5年間の働き方はどう変化していくのか」では、働き方の未来について示唆に富む議論が繰り広げられました。奥田 浩美さん(株式会社ウィズグループ 代表取締役)と尾原 和啓さん(執筆業 IT批評家)の2名が登壇し、働き方の今後をテーマに様々な視点からディスカッションが行われました。

日本ではコロナ禍をきっかけにリモートワークが一気に広まりました。一方「リモートで働ける環境は5年以上前から社会にあった」と尾原さんは指摘します。尾原さんはバリ島に在住しながら遠隔操作ロボットで六本木のオフィスにリモート「出勤」するなど、コロナ禍以前から時代に先駆けて新しい働き方を実践してきた人物。そんな尾原さんは、これまでリモートワークの普及を阻んでいたのはIT環境でなく「企業側のレディネス」と主張します。レディネスとは、ある変化に対する準備の状況を表す用語。リモートワークに対する企業側のレディネスが向上したことが過去5年間における一つの変化だとしました。またPC一台あれば誰もが自由に自己表現できる時代において、企業側のレディネスはさらに重要性を増していくとの見方を示しました。

「何か新しい事を生み出すには対面でないと、みたいな考えも代わってきた」と奥田さんも振り返ります。2000年に出産を経験した奥田さんは、当時からリモートワークが前提だったそう。翌年2001年に起業し、最初の数年間で取引先をリモートワーク可能な企業のみに絞っていったそうです。「自分の働き方を決めたら付き合うクライアントが決まってきた」と振り返りました。

働き方は「オーケストラ型」から「ジャズ型」へ

また働き方は「オーケストラ型」から「ジャズ型」へ変化しているとの指摘がありました。「オーケストラ型」では全員が決まった時間に集合して決まった結果に向けて仕事をするのに対し、「ジャズ型」ではその時々の状況に応じて即興的にチームを作って働きます。誰かが演奏を始めたら近くの人がふっと参加して広がっていくような、ジャムセッションのイメージに近い働き方とのこと。新しい時代において、全員が決まった時間に決まった場所へ集まって働くやり方はそぐわないと尾原さんは主張します。それを表す概念として「アンスケジュールド(unscheduled)」という言葉が使われました。つまり、全てをあらかじめスケジュールするのではなく、その時々の社会の要請に合わせて動く、いわば脱スケジュール型の働き方が新しい時代のあり方とのこと。「どうせ皆オンラインに常時接続しているのであれば、定例ミーティングなど必要ない」「その時その場にいる人で課題解決し、それを積み上げていけばいい」といった指摘が新鮮でした。

「みんながクロスする瞬間はいつ来るかわからない」と奥田さんも指摘します。だから「いつでも参加できる側でいることが重要」。アンスケジュールドのような考え方をいかにイベント運営などに応用していくかは、新しい時代のひとつの課題ではと示唆しました。

フリーランスもプロジェクト単位で稼いでシェアする時代

過去5年間でフリーランスという働き方を選ぶ人が増加しました。奥田さんは「フリーランスもお金を一人でもらう時代ではなく、タスクやプロジェクト単位でもらいシェアする時代」と主張します。自身も様々な企業やプロジェクトに関わる中で、自分のところに直接お金が落ちてくるケースは実は半分にも満たないとのこと。残りのお金はどこに行っているのかというと、自身が関わっている企業や団体の利益になっているそうです。しかし「それらの団体からもらった知識や経験を働く上でのエンジンにしているから構わない」と語ります。身近な例として、ある兼業主婦のスタッフ(Aさん)の例を挙げました。Aさんは、企業課題をいつも家庭に持ち帰り、家族で話し合った上で意見を返して来られるそうです。この場合、企業側はAさん個人を雇っているのか、それともAさんの家族を含めて雇っているのか分からなくなります。このように「一対一の契約で業務が返ってくる時代ではもはや無い」からこそ、個人費用にするより皆で使って皆で成長したほうがいいと主張します。お金もエネルギーと同じで、あるものをどう循環させるかが重要と語っていたのが印象的でした。

自分が「何者」かわからなくていい ー肩書からポートフォリオの時代へ

「何者か」にならなければならない、という声がよく若い世代から聞かれます。自身も周囲から何者か問われた時期があったと語る奥田さんは、「何者かわからなければならないのは現代までの話」と一蹴します。タスクやプロジェクトごとに仕事を受注していく世の中において、肩書や何者かということを議論するのはもはや時代遅れであり、将来は何者かわからなくてもいい時代が来ると奥田さんは指摘します。この点について尾原さんも「全てはグラデーションのようになっていき、ポートフォリオが大切になっていく」という表現で同意していました。

そのような時代に大切になるのは「終身信頼」だと尾原さんは指摘します。「この人とジャズセッションを奏でたい」「この人になら賭けてもいい」という信頼を貯金すること、つまり「貯信」を積んでいくべきとの指摘はとても参考になりました。

カンファレンスに参加してみて ー自分の過去5年の働き方を振り返る

今回カンファレンスに参加したことで、自分自身の働き方が過去5年でいかに変化したかを振り返るきっかけになりました。

私は現在企業勤めをしながら、フリーランスとして原稿を書いたりしています。フリーランスとしての活動は単発型のタスクが多く、都度状況に応じてチームを組みながら進めています。その点で「ジャズ型」の働き方は自分にとって確かに身近なものとなっています。例えば英訳の仕事を請け負ったときは、ネイティブスピーカーの校閲者とチームを組みます。講演等を依頼された時は、依頼主の方々と相談しながら講演内容を詰めていきます。これらもある種のチームと考えると、確かにその時々の状況に合わせて即興のチームを組みながら働いてきたことに思いあたります。近年フリーランスがチームを組んで仕事を受注する働き方が注目されています。フリーランスの方々にとっては当たり前の働き方だったのかもしれませんが、副業の広まりにより、より多くの層にこうしたジャズ型の働き方が広まっていくのではないかと思います。

フリーランスもプロジェクト単位で稼いでシェアする時代という指摘はこの点と重なります。半分以上のお金は自身の元に落ちてこないという奥田さんの発言に最初は驚きましたが、我が身を振り返ると同じような考えが当てはまるときもあります。

行った仕事に対して適正な対価を受け取ることは、私自身とても大切なことだと考えます。一方フリーランスとして働く中で、相手との関係性によっては、いわゆる友情料金で仕事を引き受けたり報酬の受け取りを辞退したこともあります。そのような判断をするときは、非経済的な報酬が影響しています。相手との関係性、自身の成長、楽しいかどうかといった非経済的な判断基準がもうひとつの軸として走っているのです。もちろん報酬を辞退するようなケースはまれで、通常は適正な対価を受けることが大前提です。しかし金銭的な報酬だけでなく、非経済報酬にも目を向けてみることで人生の選択肢が広がる気がしています。

これは「貯信」にもつながる考え方かもしれません。私自身、これまでお金でもらわなかった部分については、社会に貯金したと考えるようにしてきました。これまでに勤め先の倒産を二度経験して思うのは、金銭的なつながりだけの関係はとても脆いということです。尾原さんが指摘されたように、「この人とジャズセッションを奏でたい」「この人になら賭けてもいい」と思ってもらえるような行動を積み重ねていくことが大切だと感じます。また自分自身がそう思える相手を社会にたくさん作ることで、人生がより楽しく豊かになるような気もしています。

最後に、出産後は全てがアンスケジュールドな世界です。リモートワークをきっかけに広まった、時間や場所にとらわれない働き方には、自分自身とても恩恵を受けています。細かく予定を立てられない自身の現状をハンディキャップのように感じていた部分もありましたが、アンスケジュールドこそこれからの働き方という尾原さんの指摘に救われた思いがしました。

過去5年間の働き方を振り返り、今後の働き方について考える貴重な一日となりました。当カンファレンスは今年が最後とのことですが、今年蒔かれた種は5年後よりさらに先の未来に続いていくと思います。主催者の皆様、登壇者の皆様、貴重な学びの場をありがとうございました。


開催概要
「働き方を考えるカンファレンス2021」
ー働くのこれから: 「働く」は変わったのか?働き方の未来をつくる ー

日時:2021年2月24日(水) 10:00-19:00 (開催修了)
開催場所:オンライン開催

https://www.atwill.work/conference2021/

#日経COMEMO #この5年で変化した働き方

この記事が参加している募集

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?