マガジンのカバー画像

叙事詩『月の鯨』

17
神話上の白き妖獣「月の鯨」を追い求めてよるべなき海を行く船。その行き着く先は? メルヴィルの『白鯨』に素材を得たフィクションです。
運営しているクリエイター

記事一覧

鯨の中へ 〜叙事詩『月の鯨』第一の手紙(15)〜

〈まあ、大層な言葉でいえば、幻想的、超現実的、あるいは荒唐無稽というべきか。あいつの手紙…

汐田大輝
1か月前
65

白い泉 〜叙事詩『月の鯨』第一の手紙(14)〜

宇宙創生のときから 鯨は世界の中心であった 古代人は鯨を神殿に祀り 娘らを争って贄に捧げた…

汐田大輝
5か月前
55

鯨の感覚世界 〜叙事詩『月の鯨』第一の手紙(13)〜

すったもんだの末に仕留めた抹香鯨 長々とけだるい引き揚げ作業の末 その恐るべき巨体が甲板に…

汐田大輝
8か月前
56

自滅 〜叙事詩『月の鯨』第一の手紙(12)〜

さて 船長様御一行が 人類世界の光源たる創造物に喰らいつき 酒池肉林を繰り広げていたときだ…

汐田大輝
1年前
42

狂宴 〜叙事詩『月の鯨』第一の手紙(11)〜

その夜 〈月の鯨〉を祀る厳かな礼拝堂にて パーティーが行われた 高級船員限定の集まりだった…

汐田大輝
1年前
51

鯨を追う 〜叙事詩『月の鯨』第一の手紙(10)〜

太陽の光は大気を銀色に染め 万物は茫洋とした昏睡状態に陥っている うつらうつらとして 眼を…

汐田大輝
1年前
41

捕鯨、幻の国、鯨の王国 〜叙事詩『月の鯨』第一の手紙(9)〜

なぜ、オレたちは鯨を追いかけるのか 世界中の数多の捕鯨船が 海の藻屑と消えるかも知れぬ危険を冒し 血眼になって鯨を追い回すのはなぜなのか もちろん決まっている 金になるからだ オレたちの住む世界は鯨なしではまわらない この闇深き世界に灯をともしてくれるもの それが鯨だ 鯨の体内から溢れ出す純白の油 その神々しき真白きものを手に入れるためにのみ オレたちは世界を駆けめぐる 鯨がいなければ世界は動力を失い 暗黒世界に沈んでいくことだろう ところがだ この神聖なる鯨を食用にしてい

海鴉、幽霊船、大烏賊 〜叙事詩『月の鯨』第一の手紙(8)〜

船は超自然的現象の中を進んでいく 現実と幻想のあわいをただよう舟子たち 船長は姿をくらまし…

汐田大輝
1年前
37

喜望峰 〜叙事詩『月の鯨』第一の手紙(7)~

鯨群の潮吹きを ことさら秘蹟めいたものにしたのは 不思議なほど清澄な天候だった 倦怠と孤独…

汐田大輝
1年前
40

潮吹、追跡、噂 〜叙事詩『月の鯨』第一の手紙(6)~

空と海は清澄の気に満ち 銀色のさざ波がうっすらと しかし常ならぬ確かさで寄せている はるか…

汐田大輝
1年前
33

虚無、日常、鯨群 〜叙事詩『月の鯨』第一の手紙(5)~

クエクエが大切に祀り上げていた小便小僧 床に転がって埃だらけになっている オレは布で磨き、…

汐田大輝
1年前
29

説教、幻術、憤怒、血の涙 〜叙事詩『月の鯨』第一の手紙(4)~

神父さまの説教が始まる 淫祠邪教に呪われたる舟子ども 貴様らの祈祷で嵐が鎮まることはある…

汐田大輝
1年前
30

嵐の夜、祈祷、礼拝堂 〜叙事詩『月の鯨』第一の手紙(3)〜

クエクエの祈祷がずっと聞こえていた 海は荒れ 風は吹きすさび 船体が軋んでいる 上下左右に…

汐田大輝
1年前
23

船長、壁画、海坊主 〜叙事詩『月の鯨』第一の手紙(2)〜

不思議なことがある オレはこの船に乗り込んでから 船長の姿を見ていない 義足でオレを突き飛ばした船長 あの侮辱は忘れられない いつかやり返してやりたいと思っていた その船長が一向に姿を現さない 何人かの船員に聞いてみた いつも要領を得ない答え 船長代理とかいう奴が船の指揮をしている 噂によると船長は日本人だそうだ 名はエイハ・マイ マイは日本語でダンスを意味するそうだ オレはその話を聞いて 笑いころげた あのイカツイ船長がダンス 想像するだけで気が変になる 奴は船が怖くて逃