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思い出と紅茶

いつも一人だった。 家に帰ると、母はちょうど出勤する時間で、「ごめんね。」と言いながら出かけていった。 一人で夕食を食べて、テレビを見て、寝る。母が作り置きしてくれたご飯は、美味しいけれどいつも冷たかった。 朝目覚めると、母がコートを着たまま化粧も落とさずに、倒れこむようにしてベッドで寝ていることが時々あった。コートを脱がせると、酒と煙草と香水の匂いがむあっと漂って来る。わたしの嫌いな匂い。母をいじめる匂いたち。 母は目を覚ますとわたしの朝食を準備しようとするので、できるだ

    • 無駄話と忍耐と苛立ちの先には何もなかった

      男のすきっ歯が覗く。 小さな目を細めて、大きな体を揺らせて、大きな笑い声を立てる。 ひどく不愉快だ。 男は、人の個人的な領域に土足で踏み込むことを好む。 私情を笑い、偏見で断定し、有無を言わせない。 小さな世界の中で、力関係が一番優位にあるので、踏み込まれた方は仕方なく笑い返す。 周囲の人間も雰囲気に合わせて笑う。 元来不器用で集団に溶け込めない私のような人間も普段はもう少しは笑える。 集団での会話で消耗はするが、苛立ちはしない。 苛立ちの裏には、その人間が大切にしてい

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