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[イベントレポート]レガシー産業のスタートアップで働くデザイナーの面白さ

こんにちは、プロダクトデザインチームの新行内(@singularity8888)です。

7月19日に国際物流領域のDXを推進する株式会社Shippio、医療領域のDXを推進するUbie株式会社、業界横断型の現場DXを提供する株式会社カミナシによる合同イベント「レガシー産業のスタートアップで働くデザイナーの面白さ」を開催しました。

大きなテーマの会でしたが、プロダクトデザイナーの仕事全体のフロー、組織作り、顧客理解といったレガシー産業のデザインが色々な視点から語られ、とても面白いイベントだったと思います!
開催から少し間が空いてしまいましたが、今回はその内容についてレポートします。

LT①: レガシー産業のプロダクトデザイナーの動き方

1人目の登壇者は私、株式会社Shippioのプロダクトデザイナーである新行内です。

私は、今はShippioのインハウスデザイナーとしてデジタルプロダクトのデザインをしているのですが、元々は長くクライアントワークをやっていました。
なので、今のShippioのプロダクトデザイナーが行う仕事の流れについて、

  • 意思決定や開発を効率化するための取り組み

  • クライアントワークと変わったこと

を交えながらお話ししました。

また最近行っている取り組みについてご紹介しました。例えば課題特定のフェーズでは、やりたいことに対してすぐにできることがとても少ないので、最低限何をすれば価値が出るのかを知るといったことです。
ソリューション定義では、エンジニアと抽象度が高い状態で議論するため、手書きのスケッチや要件のリストといったものをまず共有しています。

最後に、最近の失敗談として、最近リリースした機能が全然使われていない話をご紹介しました。ユーザーからの要望もたくさんもらっていたし、社内でも絶対に必要だという声が多かったのですが、フィードバックがあった時期からユーザーやプロダクトの状況が変化しているので、改めて今必要なのか、どのような仕様にすべきなのかを再考する必要があったと感じています。今分析やフィードバック収集を進めているところなので、これは今後に活かしたいです。

動画はこちらから。該当箇所から再生します。
「LT①: レガシー産業のプロダクトデザイナーの動き方」の動画。該当箇所から再生します。

LT②: デザインの価値を最大化するための組織デザイン

2人目の登壇者は、Ubie株式会社の大木尊紀さんです。

「世界中の人を健康にする」というミッションを持つユビーでは、ホラクラシー型の組織に変化してから3ヶ月ほど経つそうです。LTでは、その中で発生したデザイナーに求められるスキルセットの変化や、デザイン組織の見直しといった課題についてお話しいただきました。ホラクラシー型の組織とは、部署や役職、上下関係が存在せず、「サークル」という単位で動くというものです。
ライトニングトークでは、この変化に付随して発生した課題を解決するため、デザインの価値を最大化する組織作りを行なったことをご紹介いただきました。

具体的にはまず、Ubie Product Platform(プロダクト開発を担う組織)のメンバーが一時的にUbie Accelarator(全組織を横断した連携をサポートする組織)に出向き、全社横断的な組織体制の構築サポートと、新しいジョブディスクリプションを定義することでの適任者の採用を行うようにしたことです。
また、肥大化していた組織を機能ごとに分割し、課題となっていたユーザー体験品質については、それを監視するサークルを作り、データとデザインの両面からユーザー体験を担保するようにしたとのことでした。

またスケーラビリティを重要視しながらも、柔軟性を失わず、事業フェーズに合わせた組織設計を続けることも最後にお話しされていました。

動画はこちらから。該当箇所から再生します。
「LT②: デザインの価値を最大化するための組織デザイン」の動画。該当箇所から再生します。

LT③: レガシー産業における、顧客理解とデザインの実践

3人目の登壇者は、株式会社カミナシの丁 未婷さんです。

パソコンを持たず働くノンデスクワーカーに向けた事業を提供するカミナシでは、顧客理解をとても大切にしていて、ユーザーの業界と離れているからこそのデザインの面白さがあるそうです。
カミナシのユーザーはノンデスクワーカーですが、デザイナーは普段パソコンに向き合っているため、パソコンを使わないユーザーに深く共感できません。しかし、だからこそ、先入観を持たずに弟子入りの気持ちでユーザーと向き合うことができます。

ユーザーが日々仕事上で抱えている課題に深く共感するためには、一次情報と二次情報の2つを活用しているそうで、一次情報の具体的な事例として「現場訪問」、二次情報の具体的な事例として「CSからVoCをインプット」を挙げられていました。また一次情報と二次情報のメリットとデメリット、具体的な活用シーンに合わせて適した手法を選ぶことが大切だと話されていました。

最後にカミナシでのデザインの実践について、いくつか事例を紹介していただきました。
まず、新機能の探索フェーズでは、ユースケースごとに要件をマッピングし、どの業界のどんなユースケースに対しての施策とするか検討しています。カミナシでは業界横断的にサービスを提供しているためです。

また、見た目の綺麗さだけではなくユーザーに適したUIを作るための取り組みとして、現場の利用環境と同じように手袋をつけて操作し、ボタンサイズや余白等デザインコンポーネントのデザインを行なっているそうです。

動画はこちらから。該当箇所から再生します。
「LT③: レガシー産業における、顧客理解とデザインの実践」の動画。該当箇所から再生します。

QAセッション

QAセッションで挙がった質問と回答をご紹介します。回答は要約のため、より詳しい内容が知りたい場合は動画をご覧ください。

Q. コンセプトテストやユーザーテストの対象者はどうやって探していますか?

株式会社Shippio 新行内:
とても困っています。笑 最近やった取り組みとしては、クラウドワークスでお仕事を依頼する形で協力者を探すというのをやりました。でもクラウドワークスみたいなものだと、サービスの性質上スクリーニングが厳密にできないので、その点での難しさがあります。
株式会社カミナシ 丁さん:
カミナシは現場ドリブンというカルチャがあって、CSチームと協力して、実際導入していただいているお客さんのところに話を聞きに行く機会が割と多いです。あとは展示会に参加したり、ビザスクというサービスを使って対象者を探す方法もあると思います。
Ubie株式会社 大木さん:
あまり困っていないですね。医療系のtoCのアプリはイメージがつきやすく、結構集めやすいのと、社内に何人か医師がいるので、その医師づてに他の医師の方にヒアリングしたりしています。

Q. ユーザー体験、施策に対する評価はどのように行なっていますか?

Ubie株式会社 大木さん:
弊社の「Ubie Product Platform」においては、評価が存在せず、昇給は業績に連動する形で全社連動報酬としています。報酬の増減は、事業指標に基づきます。
デザインに関しては、各プロダクトチームにデザイナーがおり、その評価はデータベースで行われていますが、デザイナーによる評価はあまり行われていません。全体の評価方法についても模索中です。特に製薬企業との案件では、特定のアンケートやデータ提供が必要になる場面もあり、それと既存のユーザー体験をどうしていくかは絶賛考えているところです。
株式会社Shippio 新行内:
新しい機能をリリースする際、成功のための指標や仮説を事前に設定しています。具体的には、業務工数の短縮や操作の間違い削減などを考慮し、リリースしてからのログやユーザーフィードバックでその実績を確認します。成功か否かの判断をして、新しい課題を特定し、次の開発に取り組むサイクルを継続しています。
株式会社カミナシ 丁さん:
ケースバイケースで、課題感が強い機能に対して、特定の顧客からベータ版のフィードバックをもらい、小さい改善を行います。ゴールを決め、一部価値を提供できるところまで開発し、リリースします。数値やゴールを事前に設定する開発の仕組みはいいなと思ってて、今どういう風にするかを検討しています。

Q. 機能の優先度はどうやってつけていますか?

Ubie株式会社 大木さん:
UbieはOKRを運用していて、全社で組織横断的に設定して、各組織にもOKRがあります。そのOKRのオブジェクティブの達成が一番重要なので、優先順位の一番大事なキーになります。もう一つの軸としては、製薬会社さんとの案件で、年末とか年度末とかデリバリーの期間が決まっているので、案件がうまく捌けないと緊急度が上がったり優先度が上がったりします。
オブジェクティブを決める際には、Ubieはちょっと変わった運用をしていて、先の未来みたいなエモいゴールを設定しています。そこから一段ブレークアウトした現実的なものがオブジェクティブになります。
株式会社カミナシ 丁さん:
カミナシはデザイナーで全ての優先度を決めていません。基本的にPMがメインで、デザイナーが一緒に、ヒアリングや整理をして一緒に決める感じです。ビジネスインパクトがそれぞれどれぐらいあるかっていう部分と、業界横断で共通する部分の課題感が高いものの両軸でフォーカスして、ある程度方向性を決めます。
株式会社Shippio 新行内:
2人の話と重なる部分も多いですが、ビジネスゴールが優先度に大きく影響してきて、どんな方向でビジネスを伸ばすか、これから使っていただきたいお客様が大きな指標になります。さらに、優先度を決めるためのRICE指標を用い、多くの人に影響が大きく、自信を持って提供できるものを、工数が少ない中で取り組むという方針です。

Q. N1を理解することと、汎用的に共通化することのバランス、気をつけ方は何かありますか?

株式会社Shippio 新行内:
よく社内でも話題になる問題で、手探りの状態が多いと感じます。でも、他のお客様の声も無視しないですし、社内のドメインエキスパートの意見を取り入れながら、今フォーカスしているお客様がどれだけ特異なのかを判断して進めています。また、デザインにおいては、デザインパターンがあるので、それを使って汎用性を高めていくというのも必要なのかなと思います。
株式会社カミナシ 丁さん:
すごく難しい質問だなと思います。深く聞く場合と、あまり深ぼらない場合もあります。基本的には課題の不確実性や私たちの理解度によって、話の聞き方は変わるかなと思います。意外と思っていたこととは違う課題や業務が出てきて、気づきが得られることも多いです。深く聞く際は、1人ではなく複数の方の話をまとめる形で進めます。
Ubie株式会社 大木さん:
Ubieでは、N1の深い理解をすごく深めるみたいなことは基本的にはあんまりないです。いろんな意見をお聞きしますし、いただいた意見はすごく参考にさせてもらってるんですけど、利用者も多いですし、個々人で抱えてるペインが結構違うので、N1をしっかり理解したいっていうより、自分たちが思っていることがどのぐらい一般的なのかを確認したいとかそういったところです。
QAセッションの動画はこちらから。
Q&Aセッションの動画。該当箇所から再生します。

改めて振り返ると、3社ともデザインプロセスや他職種や他部署とのコミュニケーション、組織作りといった話をしていて、話題が抽象的だったのが印象的でした。レガシー産業だけにとどまる話ではないと思いますが、良いプロダクトを作るために、デザイナーがリサーチや組織のあり方に関わっていくことの重要性を感じます。
改めてご登壇くださったUbie株式会社 大木さん、株式会社カミナシ 丁さんありがとうございました!


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