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偽病六尺 #3 「2023年の総括」

 人の時間は早いね。これ多分一年を振り返る系文章の今年における最多登場フレーズだと思う。そんなことはさておき。もう今にも2023年が終わってしまう。これといって印象的なことも無いなと思っていたら年末に立て続けに大変なことが起こってしまって未だ少し呆気に取られたままで、軽いショック状態からギリギリ立ち直れていない可能性がある。しかしひとまず色々脇にどけておいて、例年通り個人的ベストムービーやら何やら振り返っていこうと思う。

映画

今年観た映画のベスト5は以下の通り。

1位 フェイブルマンズ
2位 機動警察パトレイバー THE MOVIE
3位 トリコロール/赤の愛
4位 戦争と女の顔
5位 オカルト

1位 フェイブルマンズ

 スピルバーグの半自伝なんて面白いに決まってるんだけど想像以上だったので堂々のナンバーワン。大傑作を数えきれないほど生み出してなおかつとてつもないヒットも連発している映画史でも類を見ない大天才がどのようにして出来上がっていったのかを見ることが出来るスリルったら凄いものがあった。カメラを向けるという行為の恐ろしさについても少し触れられていて、単純なエンターテイメントでは終わらない深さがあるのも最高。

2位 機動警察パトレイバー THE MOVIE

 観たことある人は口を揃えて傑作と言う映画がどんなもんかと観てみたら傑作としか言えなくなった。演出・作画・シナリオ、どこをとっても究極でしかないバケモノ。今までの人生で観てきたアニメーションの中でもしかすると一番凄いかもしれないとまで思ったし、これからの人生で出会うアニメーションも一つとしてこれを越えることは無いんじゃないかとすら思う。色々もう言い切れないくらい素晴らしいポイントはあるんだけど、ただもうとにかくひたすらに「恰好良い」と、それに尽きる。パトレイバーについて何も知らなくても大丈夫だからとにかく一度観てみてほしい、と嫌にアツく布教する軍勢の一人に躊躇いなく成り果ててしまえるだけの魅力がある。

3位 トリコロール/赤の愛

 正直内容はもうほぼ覚えてないんだけどとにかく良かったという印象がとてつもなく強く残っていて、それはこの順位にするしか無いくらい強烈だったのでこうなった。今作の監督であるクシシュトフ・キエシロフスキという人の映画は遥か昔に『アマチュア』と確か『傷跡』だけ観ていて、面白いとは思いながらそこまで好みということもなかったんだけど、今作が完結編となる「トリコロール三部作」と呼ばれる映画たちを観て印象が大きく変わった。私好みの普通の顔して狂ってる作風だった。轢いちゃった飼い犬を飼い主に返しに行ったら「あげるよ、もう何もいらないから」って言われて「じゃあ息すんのもやめたら?」ってなんとなく返事すると「そうだな」って言われるんだよ。なにそれ。でもなんか変に泣きそうにもなったのは遺作だからなのかね。

4位 戦争と女の顔

 従軍経験によるPTSDに苦しみながら病院で日々傷痍軍人達の世話をする看護師の映画なんだけど、実はいわゆる女同士のクソデカ感情ってやつが根幹にあったりして、そういった意味での見応えも凄いことが嬉しい驚きだった。もちろん大テーマは戦争なんだけど。古いのばっか読んでないでちゃんと最近のヒット作もチェックしないと、と思って『同志少女よ、敵を撃て』を少し前に読んでいたということもあり、ある程度当時のソ連の状況を把握した状態で観ることが出来たのもより深く揺さぶられることにつながったのだと思う。言わば人生の春とも言えるかけがえのない時期を戦争に奪われた女性がドレスをまとって執拗に回り続けるシーンがいつまでも頭に残り続けている。

5位 オカルト

 うんちデリバリー a.k.a. 名取さなの同時視聴で観た。パトレイバーと同じくコアなファンが多いシリーズである『コワすぎ!』を全作観ていく流れの中での鑑賞だったのだけど、正直番外編とも言うべき位置にあるこの作品がずば抜けて良かった。ネカフェ難民のふてぶてしい男に刻まれた謎の印について調べていく中で異様な現象が次々に起こる、というのがドキュメンタリー形式で映される様の妙なリアリティが不気味でならなくて、終盤へ行くにつれてねじくれた友情物語に収斂する訳の分からなさには変な笑いしか出ない。怪作と呼ぶにふさわしい。

まとめ

 一応ベスト5を選出できるくらいの良い出会いはあったけど個人的に今年はここ数年で一番不作というか、ハズレを引いてしまいがちな傾向があった気がするので、来年はもうちょっと選球眼を磨いていきたい所存。

 そして関係ない話。やっぱりどうしても書いておかないといけない。何ってそれはチバユウスケについてである。先日訃報があったあのロックスターだ。私は中学生の頃に彼の音楽と出会い、誇張無く価値観をひっくり返された。

 ギラギラした、としか言いようのない無骨で油まみれでそれでいてとんでもなく美しい音に乗せて「宇宙を手に入れろ」と叫ばれたその瞬間から私はレールを外れてしまった。どんなレールで、その先にあったのが何なのかはいまいちハッキリしないが、何も無い荒れ野を一人歩いていると、時々ふっと遠い光がちらついて、その度に少しだけ切なくなりながらも歩き続けるしかない。そんなことを中学時代から現在までずっとやっている。こんな人生にしてくれてありがとう。最高に地獄で楽しいよ。ありがとうチバユウスケ。あんたがいなかったら今の私は無い。十五才で全てに幕を下ろしてたかもしれないんだ、本当に。ありがとう。ひとまずさようなら。また会おう。

 思えば変な一年だったなあという感じなんだけど、友達に貰った本によると今年は私にとって「乱気の年」ってやつだったらしい。人によってはこの書き方だけで貰った本が誰の著書か分かる人もいることだろう。その本の言う通りなら来年もなかなか大変らしいけど人生が変わる年でもあるんだとか。しかしそのためには何よりちゃんとそうなるために努力せよとのことだった。言われなくても、とやり返したいところだけど実際今年はあまり努力らしい努力ができていなかった。運勢とか関係なくそれがもうひとつパッとしない日々になってしまった原因なのは火を見るより明らかだから、そろそろ本気で飛ばしていきたい。三十代は人生で一番楽しいと聞く。それを確たるものとするためにも、来年でしっかり地盤を固めにかかりたい。でなきゃ天国のやせっぽちにも顔向けできない。がんばろう。よいお年を。

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