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学生時代の海外旅行.4

ストライキをくぐり抜けてやっとの思いでスペインまでたどり着きました。残すところあと数日、しかもお金もそこを着きかけていました。

3年越しの目的地

到着したのはスペインとフランスとの国境にある地中海に面した小さな田舎町。実はこの町を知ったのは大学の1年生のときでした。
デザインの先生の研究室に遊びにいったときに、置いてある洋書を何気なしにパラパラと見ていました。その中にあったのが、ポルト・ボウにある彫刻『パッサージュ〜ヴァルター・ベンヤミンへのオマージュ〜』でした。

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少し説明しておきます。まず、ヴァルター・ベンヤミンという人は20世紀最大の思想家と言われています。建築の分野にも多大なる影響を与えていて、有名なのが『複製技術時代の芸術』です。ベンヤミンはユダヤ人であったためナチスの秘密警察に狙われ、ドイツから逃げてアメリカへ亡命する直前、このポルト・ボウで毒殺されたと言われています。そのベンヤミンの慰霊碑的に作られたのがこの彫刻『パッサージュ』です。作ったのはダニー・カラヴァン。世界中で建築規模の大きな彫刻を作られています。日本にもいくつかあって、近くでいうと長居公園の競技場近くにあります。

なんてことは一切知らずに、当時この彫刻に魅了されました。
「いつか行ってみたいな」
と思ったことをそのときまでずっと大切にしていました。

日常に紛れて

ポルト・ボウに着いたのは夕方だったので、『パッサージュ』は見に行かずに宿を探して、晩ご飯は近くのレストランでパエリアを食べに行きました。隣のテーブルは家族連れで、お母さんがスキンヘッドのいかつい方でした。田舎町に流れる日常に紛れて、昨日までのドタバタが嘘みたいに感じていました。こんな美味しいパエリアは初めて食べました。

誰だよ

翌朝、宿から歩いて『パッサージュ』まで行きました。この彫刻はいくつかに分散していて巡るように見ていきます。途中、外国人(僕も外国人)のおじさんがカメラをこちらに向けているのに気がつきました。
「あー、これの撮影してるのね」
と思ってアングルから外れると、おじさんは黙ってカメラをこちら側に向けてきます。
「おーまじか、気持ち悪い、、」
と逃げるように別の場所へ移動、おじさんもカメラを向けたままついてきます。本格的にやばい展開です。こんな田舎町ですから日本人はそうそういません。近くに人もいない状態です。困った僕はしょうがないので話しかけることにしました(以下、本当は英語)。
「…なんですか?」
「君はどこからきたの?韓国?日本?」
「日本です…。僕にカメラ向けてます?」
「僕はいまダニーカラヴァンのフィルムをつくってる。『パッサージュ』を撮影してたらと君が現れた。アジア人はあまりこの辺で見ないのでそのまま回してるんだ。」
カメラを覗き込んだままそのおじさは話を続けました。怪しさ半分はまだ残っているのですが、面白そうでもあるのでそのまま会話を続けました。いつの間にかインタビューっぽくなっていました。

日本で建築の勉強をしていること、3年前にこの彫刻を知って今回の旅行の行程に入れたこと、フランスで1週間ストライキで右往左往していたこと、、。
どれくらい話したか覚えていませんが、カメラを向けられてその気になってたくさんしゃべっていました。

運命のいたずら

「ストライキは大変だったけど、君は運がいいな。明日は何の日か知ってるか?」
「明日?知らないです。なんかあるんですか?」
明日はベンヤミンの命日なんだ。だから毎年イベントをやってる」
1週間の足止めが僕をベンヤミンの命日に導いてくれたんです。
そしてさらに、
「明日、誰が来るか知ってるか?」
「…」
「ダニー・カラヴァンだよ。君は運がいいな」
僕は突然、世界的な彫刻家に会えることになりました。
しかしそんな余裕あるのかっ!
明日は927
日本へ飛ぶのは930お金も残りわずか!!
(つづく)




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