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思考する獣 | エッセイ集

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仕事をしながら、暮らしをしながら、ふと獣のように湧き出る思考を書き留める実験のようなエッセイです。すこぶる元気な時より、すこしもの暗く静かな時のお供にどうぞ(*月1〜2本目安で更… もっと読む
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2021年11月の記事一覧

多様性と自由の対価として、私たちは対話を義務づけられた。

「これからは多様性の時代です」 待ち望んだ週末。生ぬるい空気が流れる午後のリビングで、テレビから生真面目なコメンテーターの声が耳に入る。そちらにチラリとひと目をやってから、また私は手元のスマートフォンで読みかけの小説に意識を戻そうとする。するのだけれど、どうにも一度耳に入り込んだ「たようせい」という言葉が妙に頭に引っかかってしまい、もう私はどうにも活字の世界に出戻ることができなくなってしまったようだ。 こうなると、私の頭はもう考えることにガコンとスイッチが入って戻ることは

ハンドソープに、心を救われる朝がある。

ふしゅっ。 腑抜けた音と共に、きめ細やかに泡立てられたハンドソープが手のひらに躍り出た。少しヒヤリとした泡は少しだけ私の手の体温を奪いながら、静かに平たく溶け出していた。 何気ない朝。意外な期待を裏切られた私は、あまりの嬉しさに身の毛が逆立つのを感じて思わず歓声を上げた。 ついさっきまで微かな残量しか残っていない、いわゆる瀕死の状態だったハンドソープのボトルから期待通りに躍り出てきた泡は、疲れ切った私を祝福しているようにすら思えた。 オーバーワークと私生活私は仕事のこ