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ヒカリゴケと異星人

岩村田北保育園では、天気の良い午前中に散歩をすることがあった。
保育園近所の長閑な農道を、先生に引率された園児たちは列を作って、男女二人で手をつないで歩いた。
保育園の南側にある岩村田小学校の東側には数百メートルに及ぶ段丘崖があり、そこには天然記念物に指定されている「ヒカリゴケ」の洞窟がある。
また、段丘崖に沿って常木用水という小さな農業用水路と、少し東側には信濃川水系の一級河川”湯川”が流れている。
その他には田んぼや畑と雑木林が広がる風景だった。
段丘崖の茶色い地層が露出した壁には、大小さまざまな空洞があり、幼心に不気味に見えて怖かったのを覚えている。
その日はその段丘崖に沿った農道を皆で散歩していた。
5月上旬の頃であり、まだ草木が生い茂る前であった為、河岸段丘の地層は草木に覆われずに不気味な姿を露わにしている。
一緒に手をつないで歩いた子は”モリズミジュリちゃん”であった。
前列に欠席の子がいると順番が前後する。
ジュリちゃんは歩きながら私に教えてくれた。
「昔ここにパンダが生息していた」とか、
「あの小屋には昔怖いおばあさんが独り暮らししていた」
等の少し不思議な小話を聞きながら歩く。
私はそれらの話を本当のことと思い、一生懸命聞きながら歩いた。
そして突然、前の列の子が
「ETだ!」
と叫び始めた。
映画の「ET」のことを言っているのだろうか…
子供たちは段丘崖の上の方を指さしている。
引率の先生の話によると何やら段丘崖の壁に「ET」という文字が彫られているようだ。
私は一生懸命探すが、結局わからなかった。
さらに進むと天然記念物に指定されている「ヒカリゴケ」の洞窟が見える。
その洞窟は鉄格子で閉鎖されており、中には入れないがヒカリゴケが光る様子は外から見ることが出来る。
ヒカリゴケの洞窟前を抜けると、道は少しずつ細くなって段丘崖の絶壁が目の前に迫ってくる。
その時、段丘崖の上で何かが動いたのだ。
一瞬、小動物かなと思ったのだが、どうも違うようだ。
よく見るとそれは灰色の小人のようなものがみえた。
「えっ! ?」
と思わず叫んでしまった。
しかしすぐに、そんなわけはないと思った。
一緒に散歩している他の子や先生は、誰も気づいていない。
しかし、もう一度確認すると確かに見える。
そして次の瞬間、その姿が消えた。
いや、消えたというより段丘崖の上に登ってしまい木の陰に隠れてしまったのだ。
私は驚き過ぎて言葉が出なかった。
もしかしたらさっきETと言っていた子は、この生物を目撃して騒いでいたのだろうか…
私が見た限り映画のETというより、後にグレイと言われる異星人に近い感じだった。
そう思った途端に恐怖心よりも好奇心の方が勝った。
今思うと不思議な感覚だが、異星人を目撃したんだと信じ込んだ。
その後、友達にも興奮してそのことを話すが信じてもらえず、先生にも話したが笑われてしまっただけだった。
それ以来、ヒカリゴケの洞窟に行く度に何度もその方向を見るようになったが、二度と姿を見ることは無かった。
あれは何だったのか未だにわからない。
今でも時々思い出す不思議な体験である。

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