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Off Flavor入門〜⑥官能基の続き

前回からの続き
前回に続いて官能基です。3700万種類もあると言われる有機化合物を官能基ごとに「分けて」いって「分かる」に近づきたいですね。


ビールに関係する有機化合物(続き)

チオール

アルコールのヒドロキシ基(-OH)がチオール基(-SH)に置き換わったものです。官能基はメルカプト基とも呼ばれます。硫黄の電気陰性度は2.58とやや高いので、酸素ほどではないですが電子を引き寄せる力があります。チオールはアルコールに似た反応性を示します。

ビールに関係するチオール

ビールで有名なチオールは、なんといってもオフフレーバーとして有名なメルカプタン類ですかね。その他、香気成分と近年注目を集めている多官能チオール(3MH、3MHA、4MMPなど)もチオールです。

スルフィド

R-S-Rの構造を持つものです。エーテルの酸素を硫黄で置換した構造であることから、チオエーテルとも呼ばれます。

ビールに関係するスルフィド

ビールで有名なスルフィドはなんといってもDMSでしょう。代表的なオフフレーバーです。
官能基としてのスルフィドとはちょっと違いますが、タンパク質の三次構造を形成するためにできるジスルフィド結合というのも重要な構造です。これはシステインというアミノ酸のチオール基同士が共有結合してできるものです。参考にシステインが2つジスルフィド結合したシスチンの構造式を掲載しておきました。

カルボニル化合物

炭素-酸素二重結合であるカルボニル基(C=O)を持つ化合物の総称。酸素のローンペアが電子を差し出しやすい上に、酸素が電子を引っ張りよせて炭素側にエネルギーの低いπ*軌道が大きく伸びているので、構造的に様々な化学反応が起こります。アルデヒド、ケトン、カルボン酸、エステルなどはビールにもたくさん出てきます。

主なカルボニル化合物

アルデヒドはビールによく出てきます。発酵の過程で、ピルビン酸→アセトアルデヒド→エタノールという代謝経路があるので、アセトアルデヒドが特に有名です。第1級アルコールが酸化するとアルデヒドになります。エタノールが酸化するとアセトアルデヒドに、イソアミルアルコールが酸化するとイソバレルアルコールになります。

ビールに関係するアルデヒド

ケトンといえばダイアセチル。ダイアセチルはケトン基(カルボニル基)が2つついたジケトンです。ダイアセチルのように隣り合った炭素がケトン化されているものをVDKs(Vicinal Diketones)といいます。ダイアセチルの他には2,3-pentandionも有名です。
ホップ由来のケトンである2-ノナノンは近年香気成分として注目されています。少量だとチェリーのようなアロマ、多量に存在するとバターやワックスのようなアロマを呈します。

ビールに関係するケトン

カルボキシ基(COOH)を持つものをカルボン酸といいます。反応性に富み、生体内でもかなり利用されるので有機化学では特にメジャーな存在です。カルボン酸の中でも炭化水素鎖を持つものを脂肪酸といいます。二重結合を含まないものを飽和脂肪酸、含むものを不飽和脂肪酸というのは有名ですね。

ビールに関係するカルボン酸

エステル結合(R-COO-R')を持つものをエステルといいます。ビールでは発酵の過程でカルボン酸とアルコールから生成されることが多いです。エタノール以外だとフーゼルアルコールのイソアミルアルコールもエステルを生じます。
最近はホップ由来のエステルも香気成分として注目されています。

ビールに関係するエステル

アミンとアミノ基

生物にとって欠かすことにできない元素の一つである窒素。その中でもアミンは特に重要で、アンモニア(NH4)の1つもしくは複数の水素がアルキル基で置換された化合物の一群を指します。1級アミンを特にアミノ基と呼びます。(2級アミンも含めてアミノ酸とする説もあり)

アンモニアとアミン

窒素化合物の中でも特に有名なのはアミノ酸です。アミノ基とカルボキシ基を持つ化合物の総称です。ビールの中にもたくさん存在しています。

アミノ酸の例

上記の中でプロリンのみ例外的に2級アミノ酸と呼ばれます。構造式を見るとアミノ基が2級アミンになっているのが分かると思います。プロリンはビールの濁りに大きな影響を与えるアミノ酸です。(詳しくはこちら参照
アミノ酸はカルボキシ基部分とアミノ基部分が脱水縮合して、ペプチド結合を形成します。ペプチド結合がたくさん連なるとタンパク質になります。このあたりは詳しく説明すると長くなるので今回は触れません。

次回へと続く

2回にわたって官能基をさっくり眺めてみました。ビールに関係が深い官能基に絞って紹介したので、ほんの一部です。
さて次回からいよいよ化学反応についてです。しっかり説明するととんでもないボリュームになるのでざっくりとした内容になります。ざっくりの塩梅が難しいですが、できるかな。。。

お読みくださりありがとうございます。この記事を読んで面白かったと思った方、なんだか喉が乾いてビールが飲みたくなった方、よろしけばこちらへどうぞ。

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Right Step

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