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前触れ

 右眼の後ろのずっと奥のほう、眼窩の薄壁を透かして、鋭い白さに燃えたつ一閃の光が、その不意の奔出から予想されるよりも緩やかな速度で横滑りしていく。光はやがて散りぢりになって、眼球に水のように滲み出していき、視界のなかでいたずらに煌めきあってみせるのだが、その実体を捉えようとあわてて目もとの筋肉に力をこめても、けっして焦点を結ぶことはない。見たと思った瞬間、それはすでに消え去っており、すぐ隣のまたべつの場所に、新たな光の斑点がいくつかの染みを形成しはじめているのだ。


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