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エッセイ+川柳「がめ煮」

がめ煮、とはいわゆる筑前煮のこと。福岡出身の両親が、がめ煮、と呼んでいたので、気付けば私もそう呼んでいた。

鶏もも肉、蒟蒻、干し椎茸、レンコン、ごぼう、人参を油で炒め、干し椎茸の戻し汁と醤油と砂糖と酒で煮ていく。おいしいがめ煮を作るためには、干し椎茸をケチらないことが大事だと母から教わった。正直、干し椎茸はお手頃価格とは言い難い。でも、そこをぐっとこらえて奮発すると、2日分(1度にたくさん作るので次の日の分もある。なので2日分)の幸せが約束される。

高校1年生の春休み、学校主催の訪米研修旅行に参加した。約2週間の研修旅行を終え、帰国した日に母が作ってくれていたのが、がめ煮とちらし寿司だった。早くから作っておけるし、醤油やお酢の効いた、こういう味が食べたいんじゃないか、と考えてのことだったそう。

どこに出かけても必ずと言っていいほど売られているレモネードが素晴らしくおいしいアメリカの食事は楽しく新鮮だったが、薄味好みの自分には少々つらい時もあった。そういう経緯もあり、帰国した日に用意してもらったがめ煮とちらし寿司はしみじみとありがたく、おいしかった。

がめ煮とちらし寿司の献立、今度は自分で作って再現してみたいが、この組み合わせは帰国したあの日だけの特別なおいしさでもあったような気がする。今食べてももちろんおいしいに違いないが、あの時の特別感を大事に、あえて作らないのもいいんじゃないかと思う。

この頃、蒟蒻が無性に食べたい。最近、がめ煮をよく作るのは、蒟蒻を食べたいからではないかと思う。蒟蒻のないがめ煮は考えられない。何十年も食べていてこれまで意識したことがなかったけど、私にとって、がめ煮の肝は、もしかしたら蒟蒻なのかもしれない。

YesでもNoでもなくて蒟蒻だ

/白水ま衣

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