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目を閉じて

ある時僕は気づいた。
目を閉じた方が見えるものもあるってことに。

目を閉じると何も見えなくなる。
疑いもなくそう思っていたけれど、それは真実じゃない。

試しに目を閉じてみるといい。
きっと、目の前は思っているより明るい。

そう、僕らは目を閉じたって、そこに灯りを見ることができるんだ。



僕はいつからか、度々目の中の灯りを見るのが癖になっていた。

灯りの特徴は三つ。
明るさが違うこと。
動くこと。
色があること。

多くの人は寝るときにしか目を長く閉じないから気づかないが、しばらく目をつぶっていればわかる。

本当はずっと見ていたいのだが、僕が灯りを見ていると決まって邪魔が入る。目を閉じるのは寝ている、そう決めつけているからだ。

学校でも、よく「寝るな!」と怒られたが、その度に僕は弁明しなければならなかった。何せ寝てないのだから。

疑いを晴らそうにも信じてもらえないから、怒られる度に授業の内容を事細かに伝えて、聞いていたことをアピールし、突然の指名にも完璧な答えを返し、誰も文句の言えない成績を常にキープして、周りの人もやっと目を瞑るのが僕のスタイルだとわかってくれた。

いつも目を閉じているせいか友人はできなかったが、それも仕方がない。僕は、誰にも邪魔されることなく灯りを見ることに没頭した。


そのうちに、ふと気づいた。

どうやら、灯りは人と何かつながりがある。ちょっとしたきっかけだったのだが、光が近づいてきて目の前に広がったとき、目を開くとそこに人がいたのだ。

それから何度か灯りと外の様子とを見比べていたのだけれど、どうやらそこに法則があると知った。

光るのは僕に意識が向いた人だけ。そして、その意識の種類で色が変わる。

多分、プラスの感情は暖色系でマイナスは寒色系。何の感情もなければ色もない。僕の両親は暖色系だったし、いつも僕を呆れたように見ていたクラスメイトや先生の色は寒色系だった気がするから、あながち間違いでもないだろう。


今、僕は大学に入学して初めての冬を迎えた。

周りのみんなには、生まれつき僕の目は光に弱いから、長く目を開けていられないんだと伝えてあるから、高校までに比べて幾分か過ごしやすい。
ゼミの教授にも同期の仲間たちにも、すっかり認知され堂々と目を閉じて過ごしている。

今では、慣れた人なら目を閉じていても誰だか見極めることができるようになった。人それぞれで微妙に色が違うことにも気づいたのだ。

今日も僕は目を閉じて、世界を見ている。

時おり、色のない灯りが通り過ぎる。
興味本位に、眠っているような僕を見ているのだろう。

時々暖色系の灯りが混ざる。
僕のことをよく知っている、ゼミの友人たちに違いない。

ふと、ひときわ明るい暖色の灯りが浮かぶ。
瞼のうちでじっと見ていると、それはどんどん僕に近づいてくる。

世の中には、目を閉じた方がよく見えるものもあるんだ。

灯りはもうすぐ、目を閉じたままの僕を、優しく温かなその光で包みこむ。

(1200字)


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