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【短編小説】平和とは #シロクマ文芸部

平和とは、己の心の安寧を保つために他者を利用しようとする者と関わらずにいられる生活環境にあること。


木曜の夜。
そろそろかな・・・・とスマホを覗くと、すでに今週のお題が出題されていた。

『平和とは』

そう問われて真っ先に浮かんだのが冒頭のアレだった。
世界平和だとかそんな大きな話じゃない。ごくごく個人的な、狭ーい世界の中で捉えた小さな平和。

「ーーー何を書こうかな」

まずは部長のつぶやきにスキをつけ、それから指の滑るままに勢いだけでつらつらと書き進める。
そして、完成したものを眺めてみた私はーーー

しばしの間「ぬーーん・・・・」と頭を抱えて途方に暮れた。

こりゃ小説じゃない。
エッセイとも違う。
ルポか。じゃなかったら告発状か。
禍々しく、恨みがましく、怨念の籠りまくった呪詛のような、なにか。

「・・・・ダメだな。これはよろしくない」

こんなものとてもじゃないが表には出せない。なにより自分自身が不愉快になるし、実りがない。
ガーッと全部消して画面を真っ白に戻したところで、扉の向こう側から夫に「おーい」と声をかけられた。
リビングに顔を出すと、テレビの前のローテーブルにビールのグラスとカルパスが並んでいる。

「ビール飲もうぜっ」
「いいねえ~~」

泡比率の異常に高いビールに二人して手を伸ばす。

「あーーー、美味しいッ。しあわせ~~」

この言葉に嘘はない。

結婚してよかった。
あの家を出れてよかった。

結婚して以来、常に心からそう思うのだ。私、おっそろしいほど自由になったな、と。

カルパスをかじりながら先程の文芸部のお題について考える。

やっぱ暗いのはやめよう。
平和、平和・・・・そうだ鳩の夫婦の話でも書こう。

なんか幸せなやつを。

(697文字)

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