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本棚は段ボール Vol.21 『ヒトでなし 金剛界の章』/京極夏彦

人間は、自分のことを考えるときに、正直になりすぎたり、突き詰めすぎてはいけない。

突き詰めすぎると、自分が他のヒト科ヒト属のホモ・サピエンスと人間が分類した他の動物たちと同じような特徴を持つ動物でしかないことが分かってしまうからだ。


文明や社会、感情で構築されたコミュニティに属することをヒトと呼ぶのであれば、自分について突き詰めて正直になりすぎたときに、逆説的にヒトは全員、ヒトでなしであり、単なる動物(ホモ・サピエンス)でしかない。


自分の生き易さを考えたらふつう、ヒトでなしを無意識に隠して生活するものだ。けれど、正直なあまりそれを隠すことができないヒトは、社会から爪弾きにされ、妻からは「ヒトでなし」と罵られて離婚されてしまうのである。


自分のこと以外、全て他人事である。これは言葉通りであり、全人類に当てはまる。自分の主観的世界は他人の主観的世界にはなり得ないから、当たり前である。


けれど、色々なものへの執着は中々捨てられないから、ヒトの形を保っている。


なにかのため、大義のため、正義のため、正しさのため、または、感情の表現、私はいつも、誤魔化すなよ、と思う。人間が、そんなにキレイなだけであるはずがない。そこには損得があり、欲望があり、見栄がある。突き詰めて正直になれば外的要因は排除されてほんとうが見える。

キレイなだけを保とうとする人を見ると、怒鳴った主人公のように、腹が立つ。本当はそんなのじゃないくせに。でも、たぶん、人はほんとうを見たくないから見ないのである。

それをどうこう言う資格もまた、ヒトである私にはないということを大人になって自覚した。



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