心が割れるのを待っている(令和によせて)

 今朝のコーンスープを飲みながら、心が割れるのを待っていた。

 運河を下る船から生まれた波が断続的に広がり、岸壁に当たってゆっくりと跳ね返り、遠い島の入り江に訪れた波に浅瀬の藻が柔らかく揺れている。私が見ていなくても。心とは本来そんなものか、とも思う。

 マックスバリューで若い男のレジ打ちと目が合う。私の後ろは土建屋の2人組。どんな目をしてるんだろう。私の目は読み取る目、自分の目を読むことはできない。

 遠い場所から言葉が降ってくる。空の向こうから。心の奥深い地下層から。夜道でかすかに聞こえる猫の声。予感。買い物袋を下げて家に帰る。

 洗面所の鏡に立つ、黒丸が2つ。帰りの飛行機で奥二重になった片方のまぶたが6日経っても寝ても直らない。感情がない。

 他人の人生が躍動しているとき。石炭のかけらがぎらっと光る。あなたの人生をなぞりたい。触れたい動かしたい。他人の人生にバターナイフを入れて、なめらかに意義づける。あなたが私にわかられている間、私の心はどこにある?

 私の生活実感は私の仕事とかけ離れている。人を想うことで余白が埋まっていた。想うことをやめたら何もなくなると思ったのに。さざ波が渡って、黒い水面がかすかに揺れている。

 5月1日よりもっとずっと前に、さよならを言ってた気がする。いま吸っている空気と平成4年に初めて肺に吸った空気は全然違う。たぶん死ぬとき、水が止まる。(fin)

#詩 #現代詩 #令和

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