とけたアイスは心の中に
ずっと読みたかったエッセイ本を通販で買った。注文ボタンをクリックした次の日には手に取れるのだから便利な世の中だ。
私はエッセイがものすごく好きだ。長い文章を読むのがしんどいときも、エッセイならするっと読める。人が感じた日常の些細な瞬間のきらめきが、エッセイの中では生き生きとしたまま閉じ込めてある。読んでいる私も、その場に一緒にいられる。巧みな表現に痺れて、うおー、私もこんな文章を書きたい!と勢い余って、文章を書き殴りたくなる。そうしてこんな文章が出来上がる。
その日は寮のポストを何度も確認して、本の到着をまだかまだかと待ち構えていた。ポストはまだ空。部屋から出てきたついでにコンビニでアイスでも買ってこよう、と自転車置き場まで急ぎ足で歩く。コンビニ限定のアイスバーがSNSで話題になり、食べたくてブックマークをしていたのだ。ついでにカップラーメンでも買って今日の夜は簡単に済ませよう。そう決めて坂道を登っていく。
電動自転車はすいすい、車と同じスピードで進んでいく。
まだ冷たい冬の風がジャージの裾から入ってくる。
お目当てのアイスとカップ麺を手に下げ、帰宅早々ポストを覗く。
あった!段ボール素材の封筒は私宛て。ぺりぺりと包装を剝がしながら階段を駆け足で上る。玄関の鍵をポケットから出すことに三度失敗して、ようやく開いたドアを急いで閉め、靴を履いたまま玄関に腰掛ける。真っ黒な表紙にきらきらと輝く題名。心が躍る。本を包んでいるぷちぷちさえ愛おしい。
気付けば一五分ほどたっていただろうか。冒頭二つのエッセイを読み終えた私は、満足げに本を閉じる。エッセイの中に出てきたあの子に思いを馳せながら、まだ履いたままの靴を脱ぐ。いい買い物をした。ご飯を食べたら続きを読もう。レモンティーも入れてゆっくりじっくり味わおう。
左腕に下げたレジ袋の存在に気付くには、まだ私は幼かったようだ。お風呂の後の楽しみがアイスからエッセイに変わったのも、まあ悪くないか。
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