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一冊の本で、誰かを思い出すということ

先日誕生日を迎えた際、友人がメッセージと共に、最近読んだらしい本の名前を伝えてくれた。
なんでもその本を読んで、わたしのことを連想したらしい。
その本の名前は初めて聞いたもので、その著者の本も、一度も読んだことがなかった。だけどそんなことは関係ない。わたしの心の奥にあたたかく響いて、すごくうれしい気持ちになったことが充分。すぐにその本を取り寄せたのだった。


例えば街を歩いているとき、「あ、これ、彼女に似合いそうだな」「これ、きっと彼は好きだろうな」と思うこと。こういうこと、おそらく誰もが経験しているのではないだろうか。


彼らがそこに不在の中、彼らから遠い距離にいて、されど目の前のモノを通して、ふと想いを馳せる。恋人や友人、大切な人に。
されどこの場合、想いを馳せた相手にその感情は伝えられることがなく、本人の胸の内だけに入り込んでしまうものがほとんどではないだろうか。


受け取ってみて感じたが、こういう感情は、可能であるのなら、相手に伝えてあげた方がいい。なぜなら、相手を少なからず幸福にするものであるからだ。
そこにいない自分をどこかで感じてくれたこと、思い出してくれたことが、ありがたいことであるからだ。


わたしが今回感じたのは、それが一冊の本であったということへの、一際の特別感であった。
服でもなく靴でもなく。
食べ物でも、なく。
場所でも、なく。
本。


それがすごく、たいせつなことであるような気がして。
だからすぐに、その本を買ったのだ。

美しいタイトルは、千夜一夜のような響き。
手にとってはじめて、エッセイだと知る。
ぱらりと捲った頁には、モロッコ、カオサン、カサブランカ、ホーチミンの文字。
偶然にもほどがある。


だって友人は、わたしがかつてカオサンの安宿にいたことも、カサブランカを訪れたことも、ホーチミンを知っていることも、知らないのだ。


泣けるほどの偶然。
彼女にこのことを伝えに行かなくちゃ。
直接会いに行かなくちゃ。



その時わたしは手に、芳しい花束を抱えていくんだ。


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