宝塚歌劇について、いま思うことを整理する~人事の視点から

この投稿は、表題の件について、自分の意見を整理するためのものです。ときどき、頭の中がもやもやするような案件があると、とりあえず書いてみることで、自分の立ち位置を整理します。

前提条件


自分の考え方や立ち位置の大前提を書いておきましょう。

  • 汀夏子&麻美れいのベルばらが初見の細く長い宝塚ファンです。阪神淡路大震災で宝塚が被災した時に、宝塚歌劇が無くなるのは私にとって大問題だと実感しました。

  • 筋肉少女帯が休止した際に、愛するものの「今」を愛することができない喪失感を味わいました。(今は筋少は復活していますので大事に応援してます)

  • 会社人生、ほぼ人事です。2019年からの働き方改革は働き方に関する社会常識を大きく塗り替えたと感じます。

  • 管理職でもあります。会社側の本音として、「勤務時間管理」について思うことはあります。

  • 今回検討したいのは自分の立ち位置です。この思索によって、私の行動をどう変えていったらいいかを考えます。

今回の案件について


今回参考にしたのは「宝塚歌劇団の生徒が亡くなったこと」と、「遺族による会見」についてです。いろいろと週刊誌報道がありますが、ここでは取り上げません。

現時点(2023年11月12日)でのファクトは下記2件かと思います。

ファクト1

2023年9月30日 宝塚歌劇団生徒(25)が死亡しているのがみつかる。

ファクト2

2023年11月10日 遺族代理人の弁護士が会見を行った。過重労働とパワーハラスメントについて取り上げられた。遺族側のコメントが読み上げられた。

過重労働はあったか


2015年、電通の高橋まつりさんが、過重労働を苦に24歳で自殺したことをきっかけに世論が高まり、働き方改革へとつながりました。

過重労働は人事や管理職にとってはとても大きな問題です。決められた時間(36協定および特別条項)を超えて働いてしまわないよう、弊社では勤務時間をモニターして、危険信号に早々に気づけるようにしています。

同様に、サービス残業にも敏感になっています。
例えば昔は始業時間には机について業務を始められるよう、早めに来社というのは常識でしたが、いまはタイムレコーダーに出勤を入れてから席に着き、PCを立ち上げるのが常識です。

翻って、宝塚では。

トップになるとかわいそうなくらい痩せてくることは見えてました。20年以上前にとあるトップさんのサヨナラの見送りをした際には、脂肪が全然なくて骨と皮の間にあるのは筋肉だけっていう感じでした。(めっちゃ踊るから太ももの筋肉はめっちゃある)
最近では、みなさん2番手になるくらいから痩せていってますよね。

娘役さんが髪飾りやアクセサリーを作るために、初日前は寝てないって話も昔からよく聞いてました。
40年前の演目で、演出家の先生がトップ娘役に「おまえ、その髪型それでええんか」と聞いて、「いいです」と彼女が言ったら、しばらくしてトップ娘役ふたり体制になったことがありましたよね。
そんなこともあって、娘役はかつらや髪飾りにめちゃくちゃ気を使ってたのではないかなと思いますし、それが大切だと申し送りされていたと思います。しかもそういう髪飾りが可愛いかったりすごく工夫してたりするので、雑誌やTVで紹介されるのが楽しみでした。

特定の演出家の先生が、夜中の2時とかに演出プランをメールしてくるなどの話を聞いてました。そんな先生をおちょくる演出もあったりしたので「もう、しょうがないなあ」という扱いだったのかなと思っていました。

つまり、私は気が付いていたんですよね。こんなに長い期間、みなさんの過重労働に。でも、この世界はこんなものなのかな?とも思って、真剣には考えていなかったとも言えます。

パワーハラスメントはあったか


パワーハラスメントは以下のようなものです。

職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。

https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/definition/about

今回遺族側弁護士が話された内容を見るとパワハラに該当するだろうなと思います。上級生と下級生の関係、特に初日を控えた時期の全員がピリピリした状況での過剰な業務量と指導、それによって極度の睡眠不足に陥る状態。

ちなみに、パワハラの6類型に当たらないとパワハラと認めてもらえなかったりする(指導の範囲と言われる)のですが、今回のは精神的な攻撃と過大な要求っていうのになるんだろうな。

ちなみに、宝塚では研7までは直接雇用契約、研8以降は専属の業務委託契約なんじゃないのかなと思いますが、契約書を見たことがないので推測の域を出ません。

人事として思うこと


過重労働について

過重労働では疲労が重なり、心臓疾患、脳の疾患、精神障害の発症リスクを上げてしまい、最終的に社会の生産性を下げてしまうということで、働き方改革による過重労働対策が推進されました。

宝塚でも、昔よりはコンプライアンス遵守を考えているんだなと思われることも多いです。中卒の研一生が入団の年に新人公演に出られないのは児童労働に当たるからですが、児童労働は世界的にも問題視されていて、阪急阪神ホールディングスの就業規則等でも禁止されているはずです。

阪急阪神ホールディングスのサステナビリティレポートを見てみると過重労働防止に努めることも記載されてますし、昨今ビジネスパートナーに対して法令遵守を求めることも常識なので、もちろん傘下である歌劇団を含めての規定としては完璧ってことですよね。

難しいのは「現場側に」長時間労働を望む声があることなんです。「お客様が望むのだから200%の力を発揮して働く」という社員に対し、会社側が「200%の対価なんてもらってないんだからお客様にそこまでやることない。80%で仕事して」って言ってるにも関わらず長時間労働する人がいるんです!いやこれマジで!

今回のケースも、現場にこそ「お客様の期待にこたえたい」という気持ちがあって過重労働に走らせているという日本人特有の性質はあるんじゃないのかなと思ってます。
もちろん、劇団における安全管理義務違反がないとは言えないんですけど、でもこの部分の教育はめっちゃ大変です。だいたいお客様第一の現場ってお客様第一だから、上司の言うこと聞かないんだもん。

パワハラについて

私は、学年順という考え方はあっていいと思っています。
抜擢される下級生もいます。役付きがよいから大事にされるのであれば、その生徒が大事にされるんでしょうけど、次の公演では別の生徒の役付きがよかったりします。
え、その場合どうするの?
芝居巧者とショースターだとどう扱うの?
そう思ったら、役付きとは関係なく、基本は学年順って思っておいたらいいじゃないですか。

パワハラ防止法だって会社のヒエラルキーを否定なんてしてません。ヒエラルキーの中での過剰な指導がパワハラにあたることがあるってことだけです。

いじめという言葉のほうが陰湿さを含んでセンセーショナルなので週刊誌は使いたがります。また、いじめと言ってしまうとそれがあるのかないのか、人によって主張が異なってしまいます。
でもパワハラであれば定義もしっかりしています。
つまり、それについて学び、防止することができるんです。
宝塚においても、パワハラの定義と6類型を学び、かつ必要な指導を続けるべきだと思います。

教育と労働組合


今後については教育は必須です。
フリーランスでも昨今では労働安全衛生法の対象になる見通しなので、残業代は払われないまでも、労働安全衛生法での長時間労働に抵触しないようにさせなければいけません。

前述のトップさんも、出待ちファン泣かせなくらい夜遅くまで稽古するかたでしたが、それでも「8時間寝ないと声が出ないから寝る」と言ってました。過重労働が生産性をいちじるしく下げることは自明なので、「競争に勝ちたいと思えば思うほど寝る」ことが常識になればと思います。

指導については、前述のパワハラの定義、6類型にあたらないように指導する、かつ指導側は相手の健康状態、特に睡眠がとれているかどうかをチェックする、ということを教育するしかないです。
もちろん舞台上はとても危険な現場なので、そこでは危険回避のための「大声での叱責」は必要な時もあります。工場勤務と一緒で、安全第一なんです。

そして、労働組合。
人事としてはやっかいだから自分の会社には嫌だけど、ファンとしてはフリーランス俳優の労働組合ができてもいいかなと思います。
過重労働もパワーハラスメントも業界特有のものならば、宝塚に限らず業界横断的に、こういった問題を是正できるような組合があればなと。
政治的に利用されそうな側面もあって個人的には難しさも感じるんですけど、少なくとも労働環境改善には役立つのではないかなあと思います。

私の立ち位置と、とるべきアクション


私は宝塚歌劇の一介のファンです。
最初の前提条件にあったように、私は宝塚が永遠に続いていくことを望んでいます。そのために、劇団や阪急阪神ホールディングスが法令遵守はもちろん、統制をとってできるだけのことをしてくれたらと思います。

X(旧ツイッター)で、今回のことについて、「その質が過重労働によって担保されていた」と呟いていた方がいらっしゃって、本当だなと思いました。
現在の宝塚歌劇はエンタメとしてのクオリティが非常に高いです。演者だけでなく舞台装置・転換含めて、総合芸術としてハイクオリティです。
演者だけでなく、そこで働く方々みなさんが、その情熱を突っ込みたいときには突っ込めて、休みたいときには休める労働環境の中で、お互いに心置きなく意見をぶつけ合いながら作っていくうえで作り上げられるハイクオリティな総合芸術を、これからも観たいです。

そのために座席料金、配信料金、グッズ、スカイステージ料金などが値上がりすることを、私は厭いません。

愛する宝塚がこの辛い学びの壁に向き合い、そして乗り越えることを願いますし、ファンとして伴走させていただきます。

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