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同じ虹を見ていた夕方

 連休明けの夕方、職場で同僚と話しながら、ふと窓の外を見ると、ビルの上に大きな虹がかかっていた。

 「虹だ!」と叫んだ私の声に、他の同僚も窓に群がった。東京で虹を最後に見たのは一体いつだろう。気づかないうちに出ているのだろうが、「智恵子抄」ではないけれど、東京の空は狭いし、私自身も空を見上げることが少なくなって、もうずいぶん見ていなかった。

 2年前、南オーストラリアへ出張した時、飛行機が空港に降り立った瞬間から帰る時まで、見事な虹のアーチが頻繁に出るので、私は虹の写真ばかり撮っていた。南オーストラリアの魅力を紹介するのも目的の取材だったが、現地の人は「別にここが特別、虹が多いということはありません」とそっけない反応で、結局、虹の写真は1枚も掲載されなかった。

 帰国後にその写真を見た娘が「いいなぁ、いいなぁ、虹を見てみたいなぁ」とうらやましがった。だから、今回、職場で私は「学童クラブで今、虹を見ているかな? 気づいてないかもしれないから教えてあげたい……」と思った。こういう時のために携帯電話を持たせておけばよかったかなとも思った。

 夜、迎えに行った私に娘は開口一番、「ママ、虹見た?」。

 「見た、見た。大きかったねぇ!」

 虹が出た時、娘は「次は何をして遊ぼうかな」と考えながら室内を歩いていたら、ベランダで遊んでいた子たちが「虹だ!」と声を上げたので、走って行って見たのだそうだ。「ママも見ているかな?」と思っていたそう。学童の友達が気づいて娘に教えてくれたおかげで、ずっと見たがっていた虹を見られて良かったなぁと思った。

 ちなみに、帰宅した夫に娘が「今日、虹が出たよね」と言うと、夫は「えっ、そうなの?」と答えていた。

2009年5月24日

☆2009年から2012年まで子ども向けの新聞につづった連載を改編したものです。

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