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「良いUX」がブランド好感度を高める事が実証されていた話

前回、良いデザインがビジネスに与える正の影響についてのNoteを公開し、反響を頂きました。

今回は続編として「UXがブランドに与える影響」についての論文をご紹介します。こちらも非常に興味深い内容です。

参考論文:EC サイト/アプリにおける UX がブランド態度に与える影響
著:久保 麻子(アドビシステムズ株式会社)

CSの満足度はブランド好感度を高める

本研究では、Amazonと楽天のユーザーに対してリサーチを行い、その解答状況からUX要素とブランド好感度の結びつきを考察しています。UX要素は、UXを説明する際によく使われるハニカムモデルに準拠しています。

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※ 参考:「The User Experience Honeycomb

筆者はまず「Usable(使いやすさ)」について、次のような質問をユーザーに投げかけました。

・○○(サービス名)は私が求める対応に答える準備がある。
・私が取引について質問があった場合、○○は私を助けることに真摯である。
・○○は私の質問にすぐに答える。
・私が必要な時に○○のヘルプセンターに連絡するのは困難である。
・○○で買った商品はすぐに届く。
・○○で買った商品は到着時間を簡単に指定できる。
・○○で買った商品は配達状況を簡単に確認できる。

質問の内容を見る限り、「使いやすさ」と言うよりカスタマーサービスの満足度を示すものになっているようですね。

この質問の解答とブランド満足度を照らし合わせたところ、かなり高い正の関連性が見受けられたそうです。結果について、筆者は次のように考察しています。

使いやすいか(Usable)とは,注文した商品が早く確実に届くか,配達状況を確認できるか,不具合があった際に問い合わせができるか,などである。この点は,ユーザーが求める要件によってサービスを使い分けているという,インタビュー調査からの示唆とも一致する。また,EC各社ではより早く確実な配送を提供するため,物流システムに多額の投資を続けているが,この経営方針の根拠としても理由づけができた。

配送スピードに関する事柄はECならではの要素ですが、それも大事なようです。注文から商品到着まで不安なく過ごせるか、適切にフォローアップをしてくれるかと言う点はブランド構築にとって重要だということでしょう。

「信頼しやすさ」もブランド好感度を高める

次に「Credible(信頼しやすさ)」です。ユーザーへの質問は以下の通り。

・私はこの〇〇ではプライバシーが守られていると感じる。
・私は〇〇での取引は安全だと感じる。
・〇〇は適切なセキュリティ機能を備えている。
・〇〇は私のオンラインショッピングの履歴に関する情報を守っていない。
・〇〇の商品レビューは信頼できる。

主にセキュリティとプライバシーに関する内容です。Credibleもまたブランド好感度に非常に高い正の影響があることが見受けられたそうです。

信用できるか(Credible)とはプライバシーが守られているか,取引のセキュリティは万全か,商品レビューは信用できるものか,などで判断される。インタビュー調査においても,出店者の信頼性は購入に際し判断材料となるという意見や,商品レビューは参照するという意見も見られた。ECサービス提供者側も,売り手と買い手の相互評価や,ユーザーレビューを取り入れ,サイト全体の信頼性を高める施策を行なっていることも,ブランド構築には有効な施策であることが確認できた。

「探しやすさ」はブランド好感度に若干のプラス効果がある

次に「Findable(探しやすさ)」です。ユーザーへの質問は以下の通り。

・私は〇〇での買い物体験によって欲しかったものを手に入れることができる。
・〇〇での買い物体験によって探していたものを見つけることができる。
・〇〇での買い物体験の結果が成功しなかったので残念だった。
・私は〇〇で探していたものの全てを見つけることはできなかった。
・成し遂げたかったことができたので、〇〇での買い物体験にかけた時間は価値があった。

ECサイトにおける商品の検索性についての内容です。Findableは、ブランド好感度の向上に僅かながらの貢献があったものの、その効果はだいぶ限定的だったようです。

探しやすいか(Findable)の影響が限定的であった点は,先行研究からも明らかになっている通り,オンラインショッピングにおいては,楽しさ・娯楽性という要素が満足度に影響するため,単に商品を検索しやすく,見やすいサイトを構築するだけでなく,実際に市場を散策しているような高揚感を演出し,商品を探すこと自体を楽しめる仕掛け・サイトデザインの構築も必要になることが伺えた。

リアル店舗の例ですと、ディスカウントショップのドンキ・ホーテはあえて商品を探しにくい店内レイアウトにすることで、お客の買い物体験を演出していると言われています。一概に探しやすくすればいいという話ではないのですね。

「操作性」と「アクセス性」はブランド好感度に影響を与えない

残るUsefulとAccessibleについては以下の質問でした。

Useful
・このサービスでは、私がしたいことを見つけるのが難しい
・どのページにも簡単に遷移ができる。
・トランザクション(取引)を素早く完了させることができる。
・情報がよく整理されている。
・ページが素早く表示される。
・使い方がシンプルだ。
・私はこのサービスをすぐに使いこなせるようになった。
Accessible
・このサービスは、いつでも買い物ができる状態ではない。
・このサービスはすぐに立ち上がる・
・このサービスはクラッシュしない。
・このサービスはフリーズしない。

ここで言うUsefulは、質問を見る限りUIの操作性についてが主なテーマになっているようです。Accessibleはその意味の通り、アクセスしやすさ、繋がりやすさが主なテーマですね。

一見するとかなり重要そうなこのUsefulとAccessibleですが、意外なことにブランド好感度への影響という点では、特に正の影響も負の影響もなかったということです。つまり「関係ない」ということです。

この理由について本論文では特に言及はなされていませんが、本当にUIの快適性とブランド好感度に間に相関が無いのか、個人的にはやや疑問が残ります。

良いUXとは何か

今回はブランドを軸としたときのUXの影響を考察したものでした。

前回のデザインの記事の時でも述べましたが、「良いUX」もまた課題解決のためのUXであって、ユーザーの抱える課題によって変わってくるべきものでしょう。

一方で「サービスとして何を強みにしたいのか」という考え方次第でも、UXのあり方は変わってきます。今回の研究事例で言えば、セキュリティ面やCSの満足度を高め顧客の不安を解消することに重点を置けば、ブランド力を上げられるかもしれないという発見がありました。

一概にサービスの利便性・快適性だけを追い求めるのではなく、多面的な視点でUXを考えると更にまたUXデザインが面白くなりそうですね。


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