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【私の感傷的百物語】第二十一話 天井裏の毛物

僕の実家の一階と二階の間、つまり一階の天井裏には、よく獣が忍び込んできます。初めてその気配に気づいたのはいつ頃だったか記憶が曖昧ですが、その当時、一階で寝ていた僕の真上で、ざらり、ざらりという衣ずれのような音が聞こえてきました。無防備な就寝中に頭上から奇怪な音がするというのは、気持ちの良いものではありません。江戸時代の武士階級ならば、傍におかれた刀に手をかけるところでしょうが、そんな武器もありません。

じっと聞いていると、ガリガリという爪音もします。ここで、正体は獣であり、衣ずれの音は毛が天井の板に触れて生じる音だと見当がつきます。さらに耳を澄ましてみます。どうやら同じ場所を行きつ戻りつしているらしいです。ざらり、がりがりの音が遠ざかったり近づいたりしています。四つ足です。毛むくじゃらのようで、少しでも動くたびに音がします。これは獣というよりも「毛物」という字を使ったほうがしっくりきます。二階で寝ている今は、畳の下から例の音が聞こえてきます。頭上からの音ほどではありませんが、やはり、気になります。

毛物が現れるのは決まって夜中です。昼間は一切出てきません。なんとも化け物じみています。実際に、音がしている間に毛物の姿を拝んだことは一度もありませんから、僕にとっては怪異そのものです。箒で天井を叩いたり、蚊取り線香を焚いたり、目覚まし時計を鳴らしたりして追い出しても、しばらくすると(同じ毛物か、はたまた別の毛物か)再び音がしてきます。どこから入ってくるのかも分かりませんから、防ぎようがありません。そんなにこの家が心地よいのでしょうか。はたまた何か伝えたいことでもあるのでしょうか。もうのまま放置してしまいたい気持ちもありますが、糞尿による被害の心配もあるので、音がすればやはり追い出さない訳にはいきません。

怪異との同居は、楽ではないのです。

車にひかれて、我が家の庭でこと切れていた
ハクビシン。屋根裏にもいたのだろうか。
市役所の方が回収に来るまでの間、
般若心経を唱えて供養してやった。

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