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フルリモートで本を編集すること

いま、日本ではリモートワークが話題になっています。
去年4月に編集を担当し出版した本『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』は、東京の出版社と京都在住の著者、ニューヨーク在住の著者と編集者による3都市リモートワークによってできた本です。
この記事では、リモートワークをするにあたっての心構えを中心に記しています。編集は特殊な職種ですが、様々な方の参考になれば幸いです。

リモートワークは珍しいもの?

私は海外に住みながらビジネス書を編集しています。
NYで活躍するアートディレクターのお二人を著者に迎え、編集した本について、以前このようなツイートをしたところ意外な反応がありました。

上記のようにリモートワーク専門メディアさんに反応していただいたり、他にもフォロワーさんが「フルリモートだったの?!」と驚いていたり。

私にとって、フルリモートで仕事をするのは日常です。しかし、もしかすると日本では珍しいことなのかもしれない。そう思いこの記事を書くことにしました。(現在は自宅勤務の方が増えていますね。)

「直接会う」のは貴重かつコストの高いこと

海外に住んでいるので当たり前ではあるのですが、私にとって「直接会うこと」は最も贅沢なことです。例えば著者が日本在住だとすると、海外に住む私が実際に会うためには、少なくとも航空券代と10時間を超える移動時間が必要になります。もし私が日本在住だとしても、互いに予定を合わせ、会う場所を決め、身支度をし、現地まで何らかの手段で移動することは大きなコストだと考えます。ですからもし簡単に会える距離だとしても、直接会う回数は最小限に抑えると思います。

とはいえ、「直接会う」ことは私にとってとても重要なことです。特にコネがない方にメールなどで執筆依頼をするので、「この人で大丈夫か?」という相手の不安を払拭するには直接会って信頼してもらうことが一番だと考えています。ですから、最初の執筆依頼メールには力を入れますし、直接お会いするときには万全の準備をします。重要なことでありながらコストの高いことなので、「最初に直接会って信頼してもらう」以外の企画の内容の打ち合わせは、スカイプを使うことが多いです。また、直接会うのも、スカイプの打ち合わせも、30分から1時間以内に収めるようにしています。その理由は次の項目へと続きます。

「相手の貴重な時間をもらっている」という意識

自分がフリーランスだからかもしれませんが、「出版社も著者も私と一緒に本を作らなくても困らない」と思っています。出版社側は私の編集する本を出版しなくても社員の編集者が作る本がありますし、本業で成功している著者は本を出版しなくても生きていけます。究極本を作りたいと思っているのは自分だけの可能性が高いです。しかし、そんな中でリスクをとって出版すると決めてくれたり、本業で忙しいなか本の執筆に時間を割いてくれたりしているのです。自分と会う予定を組んでくれたり、打ち合わせの時間を設定してくれたり、メールを返信してくれたり、などなど。貴重な時間をありがとうございます、という思いで相手に無駄なことはさせない、相手がスムーズに行動できるようにこちらでできる最大限の準備を行います。当たり前のことですが、相手にとって自分の仕事は大多数のうちのひとつだと考える意識は重要だと思います。それは返信が来やすいメールにも関連してきます。

返信が来やすいメールには3つの理由がある

相手にとって自分の仕事は大多数のうちのひとつだと考えれば、メールの書き方が変わってきます。リモートなので、相手の反応無くしては何もできません。目指すメールは相手が余計なことを何も考えなくても返信できる内容のもの。私が気をつけているポイントは件名、期限、返して欲しい内容の明瞭さです。即返信を心がけ、こちらにボールがある状況は回避します。

件名
例えば出版社に送るメールの場合。私は本のタイトルを件名に必ず入れます。例えばこの本の場合、「【NYアートディレクター】〇〇修正依頼」など。出版社のスタッフは同時にいくつかの本を制作しているので、このようにすれば混乱せずにすみます。また、必ず複数責任者をccに入れて行き違いや見落としのないようにします。
一方、著者へ送る場合は件名の冒頭に必ず【編集者・古下】と書きます。作るのはビジネス書なので、著者は書くことが本業ではありません。本についてのメールだと分かるように件名に記せば、何についてか逡巡する無駄な時間を省くことができます。返信が絶対に必要な場合は件名に【要返信】と書きます。
営業担当者や書店の方に送る際にも、相手にとって自分の仕事は大多数のうちのひとつとの意識を持ってメールの件名を作成しています。

期限
自分から相手に何かを依頼する際、必ず期限を記すようにしています。もちろん、期限は余裕を持って設定します。一方で、相手から何か依頼があった際には、期限の言及があってもなくてもこちらからいつまでに返信するか設定し表明します。期限のない仕事は後回しになりがちです。当たり前のことのように思うかもしれませんが、意外に相手の依頼に期限がついていない場合があり、こちらで勝手に期限を設定する機会が多々あります。

返して欲しい内容の明瞭さ
目標は相手が余計なことを考えずにすむメールの作成です。知りたい内容がひとつならいいのですが、そうでない場合は箇条書きにしてその下に返信してもらいやすいようにするなど工夫します。文章でつなげて書くよりも、返信して欲しいことは短くはっきり書く方が相手の考える手間が省けます。また、原稿のレイアウトを修正して欲しいときなども、相手が考えなくても理解できるよう、誤解のない詳細な内容で依頼します。

ポイントは3つだと言ったのに申し訳ないのですが、私は相手の住んでいる地域は今何時か?をいつも気にしています。早く返信が欲しいときは相手にとっての平日勤務時間前(朝メールチェックをする人が多い)に、じっくり考えて欲しいときには相手(特に著者)にとっての金曜に(週末も頭の中の片隅に入れてもらう)メールを送るようにしています。時差がある分、寝ている間に返信が返ってきていることが多く、意外にタイムロスは少ないです。

リモートワークの不便なところ

基本的には不便を感じていませんが、やはりリモートにはやりづらいところがいくつかあります。

まず、「人に気軽に相談しにくい」ことです。会社に出勤していれば気軽に上司や同僚に相談し、その中でアイディアが浮かんでくることがあるかもしれません。自分の企画にダメ出しをしてくれる機会もあるでしょう。基本的に人に会うことが贅沢品になってしまうので、これをやろうと思うと準備が必要になってしまいます。慣れてくれば、こちらはSlackなどのチャットツールで解決できそうです。

他には、市場調査がしにくいことです。今どんな本があってどんな陳列がされていて、どんな人がお客さんで……など書店はアイディアの宝庫です。これはもう、しょうがないので一時帰国した際に回れるだけ書店を巡っています。営業の皆さんが情報をくれることもあり、とても助かっています。

リモート編集に使用しているツール

打ち合わせ
既にお話したように、打ち合わせにはスカイプを使うことが多いです。ほとんどの人がアカウントを既に持っているため、新しく設定する手間がないことが利点です。zoomが便利だと聞くので、今後はそちらも利用してみたいと思っています。

原稿編集
原稿の編集にはGoogle Documentを利用しています。原稿を著者からGoogle Driveで共有してもらい、こちらから編集提案をし、著者の方で編集内容を承認してもらうやり方です。この本を作成する際に初めて使ったのですが、とても便利でした。ただ、文字数の指定ができないため、ページ数把握にはWordを使用した方がいいと思います。むしろ今回、私はその用途でしかWordを利用しませんでした。

Google Drive
この本は図版や本文デザイン、カバーデザインもアートディレクターである著者のお二人が担当してくださいました。Google Driveにそれらをアップしてもらい、日本の出版社のスタッフにも共有して作業を進めて行きました。セキュリティを強化したければこちらを暗号化することもできます。

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SNS
直接会うのはハードルが高いのですが、やはり気軽に相談したり疑問点を解決したりするニーズは高いです。相手の都合の良いものに合わせ、LINEやMessenger、 Twitterなど様々なメッセージアプリを利用し、メールでの正式なやりとりの他にも気軽なコミュニケーションができるようにしています。

まとめ

私がリモートワークをする際に気をつけていることをまとめました。どれも当たり前過ぎて恥ずかしいですが、読んでいる方の参考になれば幸いです。

・「直接会う」のは貴重かつコストの高いこと
・「相手の貴重な時間をもらっている」という意識
・返信が来やすいメール、3つの理由
・リモートワークの不便なところ
・リモート編集に使用しているツール

余談ですが、私は校正や細かい直しが苦手なので、出版社のスタッフにはそれらが得意な方を配置していただくようにしています。自分の苦手なところを知っていて、それを補ってもらうのもリモートワークに必要なことかもしれません。

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