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映画館が提供できうるもの。

日本の片隅、兵庫県豊岡市にある唯一の映画館豊岡劇場がリニューアルオープンして丸3年が経過した。

僕の働くその場所は、決して設備や環境の整ったものではない。

当初は芝居小屋として昭和2年に開業し、時代とともに移り変わる娯楽施設として最終的に映画上映専門の劇場として栄えた。

その後、様々な理由から2012年3月末で一度閉館。

そして迎えた2014年末のリニューアルオープン当日。躯体の老朽化もあり、鑑賞したお客様はダウンジャケットを着ても寒いホールで2時間余りを過ごした。

そこから3年。

営業再開後も設備投資を断続的に実行し、ホール環境は改善されはじめた。当初、真冬には一桁台になることもあったホール内の気温が今は20℃を超えている。

「映画館が暖かい」なんて当たり前のことかもしれないけど、僕らにはそれが当たり前じゃなかった。

限りある資源でなにができるか

映画以外のこともたくさんやってきた。

「コミュニティ」や「クリエイター」なんてワードを使ったコンセプトを表に出し、イベント開催をしたり、レンタルホールを設置して地域の人たちの利用を促進したり、いろいろやった。

失敗と成果を重ねた末に行きついたのは、豊岡劇場という唯一無二の【映画館】と未だに膨大な市場をもつ【映画】というふたつのコンテンツだった。

原点になるはずのそこに、3年経ってやっとたどり着いた自分がいた。

劇場に勤務するスタッフは僕を含めて5人。
上映ホールは160席と34席のふたつ。
チケットとフード&ドリンク販売をするカウンターを要するロビー。
食事がとれる併設レストランとそのスタッフ3人。

毎週のように劇場公開される上映作品の中から届けられるわずかな物語たち。
これまでここを利用した人たちの膨大な時間と歴史。
再開前や後、そして今も関わってくれている人たちの想い。

限りあるこれらの資源で、僕らはなにを提供できるのだろうか。

匿名のウェブ投函箱によって見えるもの

今日、劇場のfacebookページにこんな投稿をした。

先日設置した匿名のウェブ投函箱に送られてくるメッセージへの返答なのだけど、いろんな感情が混じった上で深呼吸をして、冷静に冷静に、と文章を書いた結果がこれだ。

現状の豊岡劇場が完璧に整った環境やサービスを提供できないのと同じように、送られてくる全ての要望に答えることができないのは分かっていた。

分かっていて、このウェブ投函箱を公開した。

だからこそ、答えることができないところを突かれるとめちゃくちゃ悔しい。けれどこのウェブ投函箱がなければ送ることのなかったメッセージを、送ってくれているのだ。

そんな気持ちのかけらの片隅に、これからの劇場運営を支えるヒントが隠されていると思ったからこの窓口を開いた。

「もっと若者が見る映画を上映してほしい」という言葉の裏にはなにがあるのか。

「ニーズのある作品を上映できていない」という可能性の他に、もしかすると「見たい人に情報が届けられていない」だけで、上映していた中に見たいと思ってもらえる作品があったのかもしれない。

そうすると他にもいくつかの可能性も考えられるし、そういったヒントをより多く、より細かなリソースと照らし合わせることができたなら、自分たちの提供できるもの・できないものが少しづつ見えるようになるかもしれない。

シネコンでさえ、「映画上映だけしていればいい」という時代は終わった。

そんな話を今日、東京から豊岡劇場に来るためだけにわざわざ来てくれた同年代のシネコンマネージャーさんから聞いた。

そんな時代に映画館が提供できうるものとは、豊岡劇場が提供できうるものとは、いったい何なのか。

鑑賞環境や上映作品の幅ではシネコンとは差別化できないけど、シネコンにはないものが確実にここには存在していて、不器用にしか伝えることができないけど、もっともっと知ってもらうためにまだまだできることがたくさんある。

利用している方々、そして利用してもらえるかもしれない潜在的なお客様と一緒にもっともっとたくさん、より深く、考えていきたい。

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