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私立大学薬学部の入試は、「学校歴」重視から脱した理想形なのかもしれない

先日、Twitterで薬学部の入試に関する雑感を書きました。

今回はそこから踏み込んで、実は薬学部の入試は大学受験において極めて適正な市場競争にさらされているのではないか、という仮説についてまとめたいと思います。

「学歴」と「学校歴」の違い

「学校歴」という言葉があります。

一般に言われる「学歴」という言葉がその意味と近いのですが、「学歴」の本当の意味は以下の通りです。

初等,中等,高等の教育段階のうちどの段階を修了したかをさすとともに,各段階の学校自体の格差,序列のなかでどの程度の学校を出たかをさす概念。

コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

要は、教育段階や学位の有無を示す言葉です。ですから、実際に使われている「東大卒は学歴が高い」、「BF大卒は低学歴」というのは正確な表現ではないということです。

どの大学を卒業したか、ということを示す用語としては「学校歴」という言い方をするのがより正確です。

「学校歴」重視の視点は大学選択の強いバイアスとなる

多くの人が進学先を考えるときに重視するのが「学校歴」の問題です。

例えば、文学部志望の生徒が受験をした際、専修大学の文学部と法政大学の社会学部に合格した場合を考えます。

本来は文学を専攻したいわけですから、順当に考えれば専修大学に進学するのが当然と考えます。

ところが、日本の「学校歴」重視の人にとっては「日東駒専」と「MARCH」には明確に格差が存在します。

そのため、志望と異なる学部であっても大学名を重視して進学先を決定するという現象が頻繁に発生します。
(その要因には、文系学部が就職予備校化しているという側面もありますが)

しかも、その「ブランド」を決めているのは外部によるもので、大学における教育をいくら充実させてもそうした「ブランド」価値を向上させるのは難しい状況なのです。

もちろん、長期間の学内努力によってブランド価値を向上させた大学も存在しますが、一度くくられたランキングから解放されるのは非常に困難です。

薬学部の入試と進学先の決定は市場原理に基づく選択行動が強く反映される

一方で、薬学部、特に私立大学の6年制の薬学部の入試はこうした因習に縛られない市場原理が働きやすい状況のように見えます。

なぜならば、薬学部志望の生徒は大学名や「学校歴」に関してそれほど価値を感じていないからです。

彼らが重視する、大学を選択で考慮する条件は主に2点です。

それは「学費」と「国家試験合格率」です。

高額な私立薬学部の学費と奨学生制度

私立大学の薬学部学費は高額です。

これは大学によって異なりますが、平均すると年間で200万円、6年間では1200万円程度になります。

これは私の住む九州の平均的な所得の家庭においては、拠出するのが極めて困難な金額です。

そのため、通常であれば薬学部への進学を断念せざるを得ない高校生が大半です。

ところが、多くの私立薬学部は他大学と比較しても「奨学生制度」が充実しているところが多いのが特徴です。

成績によって全額免除、半額免除、国公立大学と同額となるレベルに補助が出るなど様々ですが、学費の面での補助が手厚いのです。

またその条件も、2年間、4年間、6年間、など細かく条件を設定しています。

そのため、こうした経営努力をしている大学に受験生が一定数集まる傾向があります。

「国家試験合格率」は学生募集の決め手

また。6年制薬学部に進学する人の最も重要な目的は「薬剤師国家試験」に合格することです。

そのため、各大学はこの合格率を上げるために多くのコストをかけています。

大学のカリキュラム自体を国試にある程度合わせたり、国試対策講座を実施したりしています。

この努力の中には負の側面として、進級や卒業要件に国試相当の試験を設定して進級者や卒業者、国試受験者を減らして見かけ上の合格率を上げる大学も存在しています。

そうした取り組みが適切がどうかはともかくとして、大学側は学生の学力向上やフォローに一定のコストを支払っていて、それが学生の志望数につながっているといことです。

有名大学の一般合格よりも、マイナー大学の奨学生を選択するケースは多い

その結果、私が現場で見る限りにおいても有名大学の薬学部に合格しても、それほど有名ではない地方ローカルな大学の薬学部に奨学生として進学するケースは増えています。
(それに加えて自宅通学できるかどうか、が決定要因になります。)

実際、予備校のデータや大学の公開する資料にもそうしたマイナー大学にそれなりの進学者がいて、定員を充足していることがわかります。

これには、薬学部の学費が金額が一般家庭においては絶妙に高く、一方で富裕層にとっては医学部や歯学部の進学と天秤にかけられる額なのも原因ではないかと考えられます。

引用Tweetの医師の方の「処方権」の無い薬剤師の職務は魅力的ではない、と医師を含む富裕層は見る一方で、庶民層には国家資格で安定していて、地域の中で比較的高給取りである薬剤師に魅力を感じている格差があるのかもしれません。

こうして、私立大学においては大学名による「学校歴」重視の選択からある程度離れ、大学間の経営競争が学生の獲得につながっている状況が発生しているように見えます。

これを理想的な市場競争と見るかどうかは難しいところですが、他の学部の大学入試の状況よりも市場原理が働いているように私には見えます。

果たして、この流れが他の学部に対しても派生していくのかどうか、気になるところです。

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