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骨太方針の閣議決定、「終身雇用の見直し」は教育業界にどう影響するか

日本型の雇用環境は高度経済成長を支え、バブル期には日本型雇用が成長の起爆剤であるといった論調で国際的にもてはやされました。

しかし、バブル崩壊、IT革命からのITバブル崩壊の中で日本は長引く不況に見舞われました。

それらの原因の一つが公私を問わず硬直化した組織構造にあるとされ、日本型雇用を見直すベンチャーなども増加していました。

しかし、その一方で公務員や財閥系などを代表とする国内大手は日本型の終身雇用、年功序列賃金制を維持し続けてきました。

年功序列賃金制の崩壊

日本型雇用の二本柱の一つである年功序列賃金制に関してはある程度見直しが進んできました。

これは長引く不況によって経験年数だけを基準にした報酬を維持できなくなったためです。

この結果、多くの企業は50前後で定額昇給を停止するようになりました。

また早期退職制度による退職金の上乗せなどを実施する企業も増加し、年功序列賃金制の上澄み部分は消え去りました。

しかし、その一方で若者が低賃金で雇用される年功序列の根っこの部分の状況は改善されていません。

かつては「いずれ給与が上昇する」という理由で低賃金労働を受け入れていた若者が、そうした業界から足が遠のくようになりました。

公教育はその典型と言えます。

近年、問題化している教員採用試験の低倍率の大きな原因一つは、労働環境や待遇に対して報われない給与が原因なのは間違いありません。

終身雇用の維持

一方で終身雇用に関しては岩盤規制が強く、これまで見直しがほとんどなされてきませんでした。

元々は労働者の雇用を守るという目的でつくられた労働関連法規に基づいており、具体的には労働契約法の16条によるものです。

労働契約法
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

この理念自体は素晴らしいものですし、労働者の権利を守るものとして尊重するべき考え方です。

ところがこれらの理念が年功序列賃金制と結びついた結果、労働者は一つの企業や事業所に新卒から定年まで勤めるべき、という概念が固定化しました。
(これ以外にも松下幸之助など昭和のカリスマ経営者の「社員は家族」といった考え方が支持されるなど複合的な要因でしょう)

そして、政府はこの根深い規制に手を付けるということです。

不適格教員の存在とその排除

第1次安倍政権の時期には不適格教員を排除すべきという世論が高まり、結果として教員免許更新制の導入に至りました。

しかし、岩盤の解雇規制のために実際にはそうした教員の排除ができないばかりか、負担だけが増えてしまうという失敗に終わったのは記憶に新しいところです。

今回の終身雇用の見直しはその部分に手を付ける意図があるということですが、大きな問題は排除したとして代わりの人材が存在しないということです。

15年前の第1次安倍政権時であれば教員志望者も多く、仮に解雇できたとしてもその代わりになる人材はそれなりの数いました。

しかし、2023年現在において教員人気は地に落ち、潜在的な免許所有者も更新制の弊害によって激減しました。

果たしていまさら公教育、教員に人が戻ってくるのか疑問です。

教員免許制度は雇用の流動化を阻害する

解雇規制を緩め、賃金上昇を行えば一般的には希望者は増加し、雇用の流動化は加速します。

しかし、教員免許制度を現行のまま運用し続ける場合、流動化の流れが学校教員の労働市場にまで波及するかは微妙でしょう。

そもそも参入者が限られる上に、新規参入者は免許取得を前提とするためです。

仮に今後も教員免許制度を維持する場合、建築士や弁護士のように法廷業務と付随業務の切り分けを行うなど、免許無しの人材が活用できる状況を作る必要があるのではないでしょうか。

ちなみに、私は個人的には通常の授業は免許の有無を問わず、試験や単位認定の段階での責任者が免許を要する、という制度設計変更をしなければ人手不足で教育現場は崩壊すると考えています。

もはや多くの企業が一生務められるような永続性や、右肩上がりで成長できる持続性を持つ時代ではなく、雇用の流動化の促進という点において、今回の閣議決定は当然の流れと言えます。

しかし、これだけでは学校教員の労働市場の流動化までは不十分のように思うのです。


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