小中一貫校化が子育て世代を呼ぶという町おこし幻想を信用してはいけない

日本中の多くの地域では過疎化が急速に進んでいます。

そんな中、教育改革を行うことでその対策にしようとする自治体も存在するようです。

この報道では北海道の当別町が小中一貫教育を標榜した改革と、教員宿舎を改装した町営住宅をりようして若い子育て世代の移住が増加したということが報道されていました。

このニュースではこうした小中一貫教育の魅力を高めることで若い世代を呼び寄せることができる、という切り口で描かれていますが本当にこうした教育改革で移住者は増加するのでしょうか。


小中一貫教育のメリット

小中一貫教育のメリットは9年間の長期で教育を行えることです。

小学校の学習で定着できなかったことを中学校で補習するなど、小中一貫教育ならではの教育内容や指導体制を敷くことで手厚い指導を行うことができます。

また「中1ギャップ」と呼ばれる学習の変化や複数の小学校からの生徒が集まることがないため、いじめなどの問題が起こりにくい環境があります。

また自治体側の視点からは、施設、設備の維持費や人件費を圧縮できることは非常に大きなメリットと言えるでしょう。

一方で周囲の人間関係や雰囲気に馴染めない生徒には長すぎる期間ともなりますし、中学校から心機一転するといったことができにくい環境でもあります。近隣の学校が存在しない地域で小中一貫校が存在するケースも多いため、近隣校に転出するということも難しいのが実情です。

また中学受験がしにくい空気感などもあり、家庭の教育観によって相性が分かれるように感じます。

当別町で子育て世代が増えた要因は何か

ではそうした小中一貫教育や町営住宅の整備が原因となった結果、当別町では子供の出生数が増加したというのでしょうか。

正直ながらそれだけが原因とは到底言えないでしょう。

なぜならば、それほど当別町の取り組み自体は決して悪いものではないのかもしれませんが、そこまで独自色のある政策ではないからです。

ではどうして出生数増につながったのでしょうか。

その理由は明らかに地理的な条件でしょう。

当別町の中心部である当別駅周辺から札幌駅までは各駅停車の電車で40分強、自動車では30㎞弱、40分前後です。

約200万人の人口を抱える政令指定都市である札幌市の中心部からこの程度の距離は非常に魅力的な立地です。

しかもリンク先の動画にあるような3LDKで47000円という家賃ならば、中心分から外れたとしても魅力を感じる人は多いはずです。

ちなみにこの距離感は東京ならば東京駅を中心として調布市や狛江市、小金井市などの距離感です。

福岡の場合は博多駅を中心とした場合、宗像市や久留米市あたりの立地に相当します。都内ほどにはベッドタウンではないものの、近年ベッドタウン化が進んでいる地域です。

どう考えても、人口集中地域からの交通の便が良い地域であるために成果が出たという理由を第一に上げるのが自然ではないでしょうか。

教育は万能ではない

こうした教育政策を変えたことで人口増につながったという切り口は大手メディアがよく使う手法の一つです。

明石市の教育政策などはその典型的な例です。

もちろん、明石市の政策が効果が無かった、無駄だったということはありません。

しかし、あの効果のほとんどは神戸市に隣接する、という立地が前提としたものであることは忘れてはいけないでしょう。

教育政策だけで人口動態に影響を与えるほどのインパクトを起こした事例は過去にも存在しないし、今後もあり得ないでしょう。

教育は明日の下地を作る重要な仕事であることは否定しません。そうした自負を持っている教員の方も決して少なくないことでしょう。

しかし、歴史の流れや地理的要因をひっくり返すほどの力はないという現実を教員自身が自覚することも教員に必要な素養ではないかと思うのです。



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