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YahooニュースにあるSPA!の記事が分析できていない、進研ゼミの“会員離れ”の真の理由とは?


ベネッセの減収、減益

少し前から教育産業は斜陽産業であるという言葉が方々から聞こえてきていました。少子化が進む中で市場規模は必然的に縮小するからです。

ところがここ数年の教育産業市場の動きとコロナ禍の影響で、どうにも予想と異なる動きがみられるようになりました。

確かに教育を受ける子供の数は減少したのですが、一人当たりの教育費は増加し市場規模は縮小しない、という状況になったのです。

その一方で大きく減収、減益しているのが進研ゼミで有名なベネッセコーポレーションです。

記事内にはこの理由に関して以下のように分析があります。

「進研ゼミ」は、学校の勉強だけでは十分でないと考える保護者が、学力底上げを目的として入会する性格が強いものでした。しかし、保護者が「学校の勉強さえしていれば大丈夫だ」と考えるようになると、その地位が揺らいでしまいます。

この記事では一方で上位層向けの塾が拡大していることを上げており、中間層の減少がベネッセコーポレーションのダメージとなっているとしています。

この分析は間違いではないが…

この分析自体は至極真っ当で間違いではないでしょう。

実際こうした中間層の減少のあおりを受けているのはベネッセだけではないからです。

代表的なのは大学受験予備校です。

中間層を対象とした大手予備校はいずれも校舎の削減を行っています。特に中間~下位層に訴求力のあった代々木ゼミナールの縮小は早い段階で行われました。

一方で記事にもあるように東進ハイスクールや東進衛星予備校を運営するナガセや、トーマス、早稲田アカデミーなどの上位に焦点を当てた学習塾は順調に増収しているとあります。

しかし、どうにもこれだけがベネッセの減少の理由かと言われるとどうにも分析が甘いように感じます。

確かに中学や高校講座の場合はそうした中間層の減少は大きなダメージとなったでしょうが小学生やこどもちゃれんじの減少がそれだけでは説明がつかないからです。

進研ゼミを利用する家庭のモデル

進研ゼミは送られてきた教材の問題を解き、その解き直しを行い、模擬テストを解いて送るという仕組みで成立しています。

小学生がこの取り組みを行う場合、必然的に大人の存在が不可欠です。自分だけでセルフマネジメントをしながら問題集をこなせる小学生などほとんどいないからです。

したがって親、従来型の家庭で言えば専業主婦である母親がそばにいてとかせることが前提で作られた仕組みと言えます。

しかし、専業主婦の割合は年々減少しています。

グラフからも分かりますが、2012年あたりからの落ち込みはかなり急激で、専業主婦世帯は2023年現在は3割程度となっています。

またこの時期から小学校の宿題の量が増加しているのも特徴です。

その原因は脱ゆとり教育で、これは小学校で2011年からスタートしました。

その結果、ゆとり時代よりもカリキュラムが従来よりも重くなったにもかかわらず、時間数の確保が難しいために宿題として家庭にお願いをする分量が増加しました。

したがって教科のプリントや朗読などの宿題を、共働き家庭の保護者が帰宅後に見るという状況が発生したわけです。

その状況下で進研ゼミをさせる時間的余裕のある家庭は多くないのは明らかです。(それすら余裕な層はZ会という存在もあります。近年Z会は幼小教育にも力をいれているようです。)

学童の充実と小学生向けの塾

この現象は学童保育の利用者数にも表れています。

2012年の時点で85万人だった利用者数は2022年には135万人まで増加しました。

学童の利用者は主に小学校低学年ですが、この利用者数は小学校3年生までの子供の数の1/3に相当します。

つまり、1/3の家庭は専業主婦、2/3は共働きでその内の半数は学童を利用している。では残りの1/3の共働きだが学童を利用していないということになります。

ではこの層はどうしているのでしょうか。

考えられるのは祖父母が面倒を見る、といったケースですが核家族化が進む現代では少数派でしょう。多くは学習塾や民間の無認可の学童保育ということになるのではないでしょうか。

今日、学習塾は疑似的な学童保育の場として機能しており、長時間の低学年時の預かりを行っている塾は少なくありません。

そこでの預かり費用は公的な学童に比べれば高価ですが、預かり時間に比して安価な設定で実施している塾も存在します。

これは収益を度外視して早期の囲い込みとしてビジネス的な利用をしているということなのでしょう。

そして、継続して高学年の預かりを行うことで、早期からの学習塾通いが中学受験市場の拡大に繋がっていると考えられます。

社会構造の変化とビジネスモデル

詰まるところ、ベネッセの収益悪化はかつての昭和モデルにベストマッチしたビジネスモデルが、社会構造の変化によって崩壊しつつあるということなのではないでしょうか。

もちろん、中間層が減少しているということは否定できませんし、それは悪化の原因の一つではあるのでしょうがそれに加えて、共働き世帯増加に伴う子供の勉強における可処分時間の取り合いに負けた、と言えるのかもしれません。

現在、ベネッセホールディングスは現在、非上場化に向けたTOBを行っているようですので、次に打って出る株主に気を使わない新たな事業モデルに期待をしつつ注視したいと思います。

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