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私立大学設置基準の見直しは新たな既得権益を生む仕組みとなる可能性

先日、私立大学の設置基準が見直され、大学全体の規模を抑制する方針に変更するというニュースが上がっていました。

少子化が進む中で定員を充足しない大学が増加しており、その対策として考えると妥当な政策のようにも見えます。

大学の設置は原則認可の方針だった

文科省はこれまで大学設置・学校法人審議会において、設置基準を人的、設備、教育内容や課程がクリアしていれば新設を認可してきました。

その結果、この30年で800校近くに大学は増加し、多くの国民が高等教育を受ける環境が整いました。

大学設置認可で大きな問題になったのは2014年の「幸福の科学大学」の不認可に際してです。

この時は他の設置基準は満たしていましたが、「科学的合理性が立証できていない『霊言』を根底に据えるという教育方針が、学校教育法に定める『学術の中心』としての大学の目的を達成できるとは認められない」として不認可となりました。

その後、HSU(ハッピーサイエンスユニバーシティ)という「私塾」として施設や教育設備を活用して運営をおこなっていたようです。

2019年に教団は再申請を行いましたが、2020年に申請を取り下げたということです。

これ以外では2012年に当時の文部科学大臣である田中真紀子氏が設置申請を行っていた3大学を不認可として物議を醸したことがあります。

この時点では過去30年にわたって不認可を出していなかったことからも、文科省のこれまでの基本方針は原則認可という立場であったようです。

定員割れの大学が4割を超える状況

現在、日本私立学校振興・共済事業団によると20年度調査で私立大学564法人のうち、78法人が経営難となり定員割れ私大は半数近くに上るとしています。

私も以前記事に書いた、恵泉女学園大も定員割れからの募集停止とされています。

こう見ると、経営破綻寸前の大学が山ほどある、誰でも入学できるという印象を受けます。

しかし、一方で大学進学率の増加により、大学進学者数は70万人弱を毎年維持しています。

これは1990年代の進学者数とほとんど同じであり、大学進学希望者という市場規模が縮小しているわけではありません。

また定員割れは経営破綻とイコールではありません。

そもそも医療系学部は制度上定員割れを起こすことが多いなど、半数が定員割れであるという私立大学の状況は各大学で様々であるため、一概には評価できないのです。

新しい設置基準は高い参入障壁となる

設置基準の見直しは以下の3点を加えています。

  1. 新設する大学の地域的なニーズや開設後の18歳人口の推計値を踏まえ、入学希望者がどれだけ集まるかの分析

  2. 同じような学部をもつ近隣の大学の定員充足状況

  3. 進学説明会や高校訪問、SNSでの情報発信といった学生募集のための計画や見込まれる効果

これを読む限りでは、今後は県庁所在地クラスの年であっても地方での新設が困難であるということが分かります。

そもそも人口減少の中で設置ができるかどうかも不明な大学の入学希望者はどれほど集まるか不明確です。

特に、新しい学問分野や大学名だけでは確保は難しいでしょう。

既存の有名大学名を冠するか、企業などのバックアップを前面に打ち出すのでもない限りは、事前の学生確保は困難です。

そうしたことからも、設置基準を高めることは参入障壁を高め、高等教育への新規参入団体を抑制する効果が高く、結局は既存の大学を過剰に保護するだけにしかならない可能性もあります。

大学という存在が既得権益となる危険性

現在は新規参入に制限がない(とはいえ既存の設置基準を満たす必要はある)ため、新興の大学が学生を集めて人気大学へと成長することが理論上は可能です。

しかし、現実には偏差値やブランドといった要因で、大学の教育力や研究力とは異なる指標で大学が選択されており、自由競争が確保されているとは言えないのが実情です。

ここ数年で人気を高めた新興の大学と言えば大和大学、少しまで言えば金沢工業大学ぐらいで、全国的に見てもほとんどありません。

こうなると、大学という機関を持つ法人そのものが厳しい認可基準に守られた既得権益となる可能性もあるでしょう。

そもそもが大学という存在は公的補助によって成立する教育機関であり、その公益性は高く、だからこそオープンな運営を行うべきです。

そうした点から考えると、設置基準は厳しくせずに数年の経過からの評価で運営補助費の増減し、経営悪化した大学は市場から退場するという新陳代謝を促進させるべきではないでしょうか。

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