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Responsive Feedingの始め方

前回記事「離乳食を俯瞰して考える(BLW, Responsive Feeding, etc.)」で触れたResponsive Feeding(RF、レスポンシブフィーディング)についてもっと詳しく知りたい!という声にお応えして、私なりに解説をいたします。

前回のおさらい。

RFについてはBLW以上に日本での情報が少ないのではないかと思います。
検索しても日本語の情報はほぼ出てこないですね・・・。
前回は、WHO1)やユニセフ2)の解説をご紹介しました。
とはいえユニセフの方は授乳に関する話題のみですし、
WHOの方も以下のように一部分に書かれているだけです。

レスポンシブ・フィーディングを実践する(例えば、乳児には直接食べさせ、年長児には補助する。ゆっくりと根気よく食べさせる、食べるように促すが無理強いはしない、子どもに話しかける、視線を合わせるなど)(DeepL翻訳)

もう少し詳しい解説は、こちら3)に掲載されています。
作成されたのは2001年。なんと20年前です。
BLWよりも古くからある概念だということが分かりますね。
よりシンプルにまとめられているのがこちらにありますので、今回はこれを参照してみましょう。

WHOによる補完食のための指導原則。

まずは項目の3を見てみます。

3.Responsive Feeding
精神的・社会的ケアの原則を適用して、Responsive Feedingを実践する。
・乳児には直接食事を与え、年長児には空腹や満腹の合図に気を配りながら自力で食事ができるように援助する。
・ゆっくりと根気よく食べさせ、子どもに食べるように促すが、無理強いはしない。
・子どもが多くの食品を拒否する場合は、食品の組み合わせ、味、食感、励まし方を変えてみる。
・子どもがすぐに興味を失ってしまう場合は、食事中に気を散らすものを最小限にする。
食事の時間は、学習と愛情の時間であることを忘れないでください。食事中は、目と目を合わせて子どもに話しかけましょう。
(DeepL翻訳改変)

とにかく子どもが中心にあり、栄養摂取というよりも、食事全体を楽しめるようにサポートをしようという姿勢を重視していることが分かります。

項目の6にも重要な記述があります。

6.食品の形態
乳児の要求と能力に合わせて、年齢が上がるにつれて、食品の形態と種類を徐々に増やしていきます。乳児は6ヶ月からピューレ状、マッシュ状、半固形状の食品を食べられるようになります。8ヶ月になると、ほとんどの乳児は「フィンガーフード」(子どもだけで食べられるスナック)も食べられるようになります。12ヶ月になると、ほとんどのお子さんが家族と同じ種類の食品を食べることができます(項目8で説明するように、栄養価の高い食品が必要であることを念頭に置いてください)。窒息の原因となるような食品(ナッツ類、ブドウ、生のニンジンなど、気管に詰まるような形状や硬さのもの)は避けてください。
(DeepL翻訳改変)

形態のステップアップについても言及があるものの、日本よりややステップアップが早めな印象を受けます。
項目8の栄養についてでは、「肉、鶏肉、魚、卵は毎日、またはできるだけ頻繁に食べる必要があり」、「果物や野菜は毎日食べる必要があり」、「ジュースの量を制限」といったことにも言及があります。
WHOは世界各国を対象としているとはいえ、当然ながらお粥だけで進めるものではありません。なるべく早期から様々な食品に触れていく必要があります。
また、かなりBLWと共通する表現がなされている点も興味深いですね。

ただこれらは専門家向けでちょっと具体性が乏しくわかりにくいかもしれません。
もう少し一般向けのものはないだろうかと探して、アメリカ合衆国小児科学会(AAP)の解説4)にたどり着きました。

アメリカ合衆国小児歯科学会(AAP)の解説を見てみよう。

前半は授乳に関する内容なので今回は省略します。
後半がこんな感じ。

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赤ちゃんが固形物を食べているときの空腹や満腹のサインを覚える。
 空腹のときは、次のようなことが起こります
 ・食べ物に向かって体を傾け、口を開ける
 ・食べ物を見ると興奮する
 ・食べ物に注目し、目で追う
 満腹になると、次のようなことが起こります。
 ・食べ物を吐き出したり、押しのけたりする
 ・そわそわしたり、気が散りやすい
 ・食べ物を与えると口を閉じる
 ・食べ物から顔を背けてしまう
 ・食べ物で遊ぶ
Responsive Feedingとは、「あなたが提供するものを、子どもが決める」ということです。これにより赤ちゃんの健全な成長と発達が促されます。

満腹であるか空腹であるかを赤ちゃんをよく観察して見極めましょう、ということですね。

さらに分かりやすいものとして、アメリカ合衆国保健福祉省の解説5)があります。
こちらはなんと0〜6ヶ月、6〜12ヶ月、1〜3歳に分けてまとめてくれています。

アメリカ合衆国保健福祉省(HHS)の解説を見てみよう。

0〜6ヶ月、1〜3歳は今回は省略して、6〜12ヶ月の項目を見てみます。

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真ん中に並んでいるのが、養育者の行動です。

・子供の食事のシグナルに反応する
・新しい食品を導入し、その種類、食感、味を増やしていく
・医療従事者の推奨に従い、さまざまな果物や野菜を取り入れる
・子どもが自力で食べようとするのを積極的に受け入れる(それが家族の目標である場合)
(DeepL翻訳改変)

一番右に並んでいるのが、赤ちゃんの行動です。

・声や表情、動作で空腹感や満腹感を伝える
・頭部をコントロールして座る
・次のような空腹の合図を使う
 食べ物に向かって体を傾け口を開ける、食べ物を見ると興奮する、食べ物に注目して目で追う。
・次のような満腹の合図を使う。食べ物を吐き出したり押しのけたりする、すぐにそわそわしたり、気が散る、食べ物を出されると口を閉じる、食べ物から顔をそらす、食べ物で遊ぶ
・半固形の食べ物を噛んで飲み込む
・手づかみ食べができる(それが家族の目標である場合)

なんとなくつかめて来た気がしますね。
とてもシンプルに言えば、BLWの要素のうち「固形食を手づかみ」を取り除いた概念といった感じです。
BLWを実践する前段階のようなニュアンスも見られますね。

やはり、ピューレをスプーンで与える場合でも、授乳に関してがそうであったように、赤ちゃんの様子を確認しながら進めたほうが良い、という概念と理解してよいだろうと思います。

さぁ、始めよう!

ではこの概念をふまえて、どのように開始して進めたら良いのかを考えてみます。
これまで参照した資料には、開始の目安などは特に書かれていませんでした。月齢も単に「6ヶ月以降に」というニュアンスであると思われます。
BLWの場合は開始そのものも赤ちゃん自身が主導していくことは以前に解説をいたしましたが、Responsive Feedingは与える際の姿勢に関する概念であるためそうしたところへの言及はないようです。
なのであえて私の解釈をお伝えすれば、この場合はやはりBLWと同じように、あれですね。

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「やってみたい!」です(笑)
赤ちゃんのアクションに頼るしかないと思うのです。
こうした様子が見られたら、ホントはBLWを実践してもらいたいところではありますが、いきなり固形食はなんだかこわい、汚れるのがどうしても耐えられない、みんなとあまりに違うのは不安など様々な理由で抵抗があれば、従来法通りにピューレをスプーンで与える。

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いやアゴにうどんついてますがな!(笑)
というのは置いといて・・・。
これまで参照してきた資料のようにResponsiveな姿勢を養育者が意識して、赤ちゃんが今食べたいのか、何を食べたいのか、どのように食べたいのかをよく観察して、決して無理強いはしない。食べ始めも食べ終わりも基本的に赤ちゃんのサインを見て判断する。
そのほかはおおよそ従来法通りと考えればよいと思います。
スプーンで与えるときに赤ちゃんが自分で口を閉じて食べ物をとらえるまで待つ、というのも大事なポイントですね。

さらに、大きくなってくれば、そのサインはよりはっきりしてきます。

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どれが食べたいかは一目瞭然ですね(笑)
ラップにくるまれたおにぎりです。
あぁ、ちなみにRFだってね、バエる必要はまったくないんですよ。
赤ちゃんはむしろ食材そのものに近い見た目のほうが、どれがどんな触感でどんな味かを判断していってくれますから。

Responsive Feedingのまとめ。

RFについておおまかにご理解いただけましたでしょうか。
BLWとの違いは、固形食や手づかみにこだわらないこと。
赤ちゃんが主導するという視点が共通していて、どちらかというと親がそれに対応する点に焦点が当たった概念といえます。
与える食材や調理法は従来法と同じと考えてよいと思います。
BLWを実践している方や興味はあるけどちょっと、という方にとって、
たとえば日本では外食の際には手づかみできる食品が少ないので、そういうときはベビーフードも活用してRFで、とか、汚れるのが嫌だから汚れやすいものだけRFで、といった柔軟なアレンジも可能な概念ではないかと思います。

しかぁし!
結局のところRFでは解決しない大きな問題点があるのです。
「BLWの始め方」でお伝えしました、離乳食に関する悩み6)のツートップですよ。

「作るのが負担、大変」
「もぐもぐ、かみかみが少ない(丸のみしている)」

それと5位には「食べさせるのが負担、大変」というのもあります。
これらが解決しないんです。
ベビーフードを使えばいいじゃないか、というご意見もあると思いますが、そうすると第2位のもぐもぐ、かみかみの件が解決しない。
5位の食べさせるのが負担な件も解決しないんですよ・・・。

結局のところ、これらをひっくるめて解決しちゃうことができるのはBLWということになっちゃうんですよね。

作るのは苦にならないよ、食べさせるのも大丈夫、という方であれば問題ないと思います。

もぐもぐ、かみかみについては色々諸説あって質の高い根拠はないのでここでは明言は避けますが、概念として明文化されたのはRFのほうが昔ですけれど、BLWは概念化されるずっと前から人類が長い間とってきたスタイルと考えてよいと思います。
食生活が現代的になり、より軟食化が加速してくるとともに、人類の顔貌は変化し、顎は小さくなり、不正咬合(悪い歯並び)は増加してきたという事実はあります。
これは人類史レベルの話ですので、現代人がちょっと固形食を手づかみさせたら歯並びがよくなるとかいうのは飛躍しすぎた話であるとは思いますが、より大きな時間軸ではそうした変化も起きている、ということは無視できない事実です。
私は歯科医師ですからそういった点も少し気になります。

とはいえ、子育てに関する選択は常に、なにを優先して考えるか、です。
おひとりおひとりの価値観に合った選択をしていただき、その支援をすることが私達専門家の役割と心得ております。

別にBLWじゃなくてもいい。
「固形食を手づかみ」というところばかりに注目するのはその本質とは異なります。

赤ちゃんも養育者もより楽しく幸せに。
それを考えれば、Responsive Feedingの概念はとーっても大事。


大人だって栄養摂取のことばかり考えて食事を摂るわけではないですよね。
いつ誰と何を食べるか。お腹が空いているかそうではないか。
そちらの方を意識して食事を摂るじゃないですか。
赤ちゃんも同じです。
その意思を尊重してあげること。
そうしたらきっと色々食べてくれるし、食事の時間がもっともっと楽しくなります。

離乳食が大変とかこわいとか、そんなのはやっぱりおかしいと思います。
もっと楽ちんに楽しく過ごすことができるはず。
そのためには食材や調理法やステップを学ぶことよりも、まず赤ちゃんをよく見てあげることなのです。

もっともっと柔軟に。
楽しく幸せに。
みんながそういう離乳期を過ごしていただけることを願ってやみません。

1) "RESPONSIVE FEEDING: SUPPORTING CLOSE ANDLOVING RELATIONSHIPS" unicef
2) "Infant and young child feeding" WHO, 9 June 2021.
3) "GUIDING PRINCIPLES FOR  COMPLEMENTARY FEEDING OF THE BREASTFED CHILD" WHO, 10-13 December, 2001.
4) "Is Your Baby Hungry or Full? Responsive Feeding Explained" American Academy of Pediatrics, 1 September 2017.
5) "Observing Responsive Feeding Behaviors in the Home: Parent/Caregiver Behavior" U.S. Department of Health & Human Services, 2 June 2020
6) 平成27年度 乳幼児栄養調査 厚生労働省
7) Pérez-Escamilla R, Jimenez EY, Dewey KG. Responsive Feeding Recommendations: Harmonizing Integration into Dietary Guidelines for Infants and Young Children. Curr Dev Nutr. 2021;5(6):nzab076. Published 2021 Apr 30. doi:10.1093/cdn/nzab076



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