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それは引用?or盗用? ――5分で分かる著作権の基礎

■今日のテーマは何?

バイラルメディアが色々と話題になっていますので,問題になりやすい著作権法上の「引用」について,ごく基礎的な知識・情報をお伝えしたいと思います。あくまで基礎です……。

ただ,「引用」は,厳密に考えると難しい問題ですので,現実にお悩みのクリエイターの皆さんは,著作権法に強い弁護士に相談されることをお薦めします。



■そもそも「著作権法上」の「引用」って何? みんなに広く拡散してあげてるんだから細かいこと言わなくても別にいいんじゃないの?

デジタル大辞泉によれば,「引用」とは一般に次のように説明されています。

いん‐よう【引用】
[名](スル)人の言葉や文章を、自分の話や文の中に引いて用いること。「古詩を―する」

まさに,今,私がこんな感じ↑で,デジタル大辞泉のご解説をこの記事の中で使わせていただくこと,これが日本語としての「引用」です。


ただ,クリエイターの方であればお分かりになると思いますが,自分が時間と労力とお金をかけて創り上げた言葉や音楽,絵,写真,画像,建物,ダンスなどが勝手に誰かにマネされると嫌な場合もありますよね?

例えば,私が今,ベストセラーになっている小説の全文をここで引用したら,その小説家の方はたまったものじゃありませんよね? 

そのため(※1),著作権法32条は,「著作物」(※2)を「引用」できる条件について次のように定めました。言い換えれば,他人の著作物について,著作権法が定める条件に従わずに引用をしてしまうと,著作権法上,違法になるということです

(引用)
第32条

1 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない
2 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。


そして,「引用」の法的定義について,知財の大家である中山信弘先生は次のように説明されています。

引用の概念は特に定義されていないが,報道・批評・研究等の目的のために,他人の著作物を自己の作品(著作物である必要があるか,という点については後述)に採録することといえよう。」(中山信弘『著作権法』〔有斐閣,初版,2007年〕256頁)。


※1 引用制度の制度趣旨について,例えば,著作権法の優れた入門書は次のように説明します。
「この適法引用制度は,既存作品についてその内容(アイデア)だけでなく表現に関しても一定程度の自由な利用を認めることで,新たな表現活動を実効的に保護・支援する必要性があること,また公正な慣行や正当な範囲という一定の枠内での利用であれば,著作権者への経済的打撃が些少であることから認められたものである。」(島並良=上野達弘=横山久芳『著作権法入門』〔有斐閣,2009年〕167頁)

※2 そもそも,「著作物」と言えないものについては,少なくとも著作権法では保護されない以上,著作権侵害などを論じる実益は乏しいです。ですから,この種の議論の出発点は,引用されているもの(被引用物)が著作権法2条が定める「著作物」に当たるかどうか,という点にあります。尚,この議論と,「引用する側(例えば,バイラル・メディア)が著作物である必要があるか」という議論は別物ですのでご注意。



■よく分からないんだけど,結局,どういう場合だったら「引用」は適法なの?

結論から言います。
著作権法32条に書かれている以下の4つの条件(要件)を満たす場合,「引用」は適法になります(※3)。

これら4つの要件のうち,1つでも満たさないものがある場合,その引用は,著作権法が認めた引用には当たりませんから,「盗用」や「剽窃」と呼ばれる危険性があります。

(1)「公表された著作物」であること
(2)「引用」であること
(3)「公正な慣行に合致する」こと
(4)「引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」であること


これらの要件の中で,問題になりやすいのは,(2)の「引用」と言えるか否かです(他の要件もよく問題になりますが……)。

この(2)のテーマについては色々と議論があります。

ただ,とりあえず,伝統的かつ最大公約数的な考えを「非常に簡単」に説明すると,以下の(a)と(b)の両方の要件を満たせば,上掲の(2)の「引用」と言えます※4)。

(a)明瞭区別性
 ⇒ 自分が創った部分と,他人が創った部分(引用した部分)がはっきりと区別できること

(b)主従関係性(附従性)
 ⇒ 量的にも質的にも自分が創った部分が「メイン」で,他人が創った部分(引用した部分)が「サブ」であると言えること


※3 ただ,厳密な論理については弁護士の岡村久道先生が述べられているように,「引用をめぐって百家争鳴の状況が続いており,基準が未確立の状態のまま,現在に至っている。」(岡村久道『著作権法』〔民事法研究会,新訂版,平成25年〕233頁)というのが現状かと思われます。また,著作権法32条以外の規制については後述します。

※4 中山信弘『著作権法』(有斐閣,初版,2007年)258頁,島並良=上野達弘=横山久芳『著作権法入門』(有斐閣,2009年)168頁,牧野利秋=飯村敏明編『新・裁判実務大系 著作権関係訴訟』(青林書院,2004年)394頁〔今井弘晃〕など。



■その他に気をつけた方がいい著作権法の規制

色々あるのですが,第1に,「引用」をする場合には,その出典を一定の方法で明示しなければならないことがあります(著作権法48条)!
誤解を恐れずに「簡単」に言えば(※5),元々の文章や画像をそのまま「コピペ」する場合は,出典を合理的な方法で明示しなければなりません

引用が著作権法上許されるかどうかという話と,出典明示義務の話は別のものですのでご注意ください。

(出所の明示)
第48条

 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
(1) 第32条、第33条第1項(同条第4項において準用する場合を含む。)、第33条の2第1項、第37条第1項、第42条又は第47条の規定により著作物を複製する場合
(2) 第34条第1項、第37条第3項、第37条の2、第39条第1項、第40条第1項若しくは第2項又は第47条の2の規定により著作物を利用する場合
(3) 第32条の規定により著作物を複製以外の方法により利用する場合又は第35条、第36条第1項、第38条第1項、第41条若しくは第46条の規定により著作物を利用する場合において、その出所を明示する慣行があるとき。
(後略)


第2は,よくある誤解に関するものです。
すなわち,著作物に「『禁引用』ないしは『禁転載』という記載がなされている例もあるが,そのような一方的表示は,契約関係にない一般の引用者に対して,法的には意味のない記載である。」(※6)ということです。

但し,この点で注意していただきたいのですが,ブログや画像をアップロードできるサービスの場合,通常は,利用規約で著作権や著作者人格権などについて利用方法について定めています
つまり,契約関係にあります。ですから,普通はその定めに従って処理されることになります。このような利用規約がある場合,上掲のような指摘は当たりません。

例えば,利用規約について同意して初めて自分の画像をアップできたり,他人の画像を閲覧,ダウンロードできたりするサービスの場合,利用者は利用規約という契約の法的拘束を原則として受けますので,その利用規約の内容に従って処理がされるということになります。


※5 実際には誤解を恐れていますので(笑),真剣に悩んでいらっしゃるクリエーターさんは弁護士に相談してください。

※6 中山信弘『著作権法』(有斐閣,初版,2007年)262頁。太字は引用者によります。


■最後に

5分で読めました……? やっぱり,無理でした?



■他の参考サイト

著作権なるほど質問箱 文化庁
http://chosakuken.bunka.go.jp/naruhodo/answer.asp?Q_ID=0000581

文化庁 | 著作権 | 著作権制度に関する情報 | 著作権制度の解説資料 | 著作権制度の概要 | 著作物が自由に使える場合
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/gaiyou/chosakubutsu_jiyu.html

著作権について:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/policy/copyright.html


#法律 #著作権 #解説


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