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「無罪推定」に関するメモ

■はじめに

この記事を拝見して,ふと思い立ったので,メモを作成しました。

山内衆議院議員の藤井・美濃加茂市長批判に、反論します。(秋元祥治) - 個人 - Yahoo!ニュース
http://bylines.news.yahoo.co.jp/akimotoshoji/20140626-00036770/ 



■問題

ネットやニュースで時々話題になる「無罪推定」とは何か?

どんな場面で妥当する考え方・用語なのか。



■定義

無罪推定(presumption of innocence)とは,

「挙証責任が検察官にあることを示した用語。」

「さらに広く,被疑者・被告人の有罪が確定するまでは,その自由をできるだけ尊重し,必要最小限の制約のみが認められるとする原理(とりわけ,その処遇の側面)も、無罪の推定という用語で説明されることがある。」

(寺崎嘉博ほか『刑事訴訟法(第2版)』〔有斐閣,2005年〕251頁)。



■法的根拠

実は,刑事訴訟法には,無罪推定の原則を定めた条文はありません(ちなみに,憲法31条が根拠になるという説もあります)。

ただ,条約(国際人権規約)には定めがあります。そして,条約は法律に優先すると一般に解されていますので,法的根拠としては国際人権規約を挙げることができます。

また,国連総会決議ではありますが,世界人権宣言にも定めがあります。

国際人権規約(B規約)14条2項
「刑事上の罪に問われているすべての者は,法律に基づいて有罪とされるまでは,無罪と推定される権利を有する。」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2c_004.html 

世界人権宣言11条1項
「犯罪の訴追を受けた者は、すべて、自己の弁護に必要なすべての保障を与えられた公開の裁判において法律に従って有罪の立証があるまでは、無罪と推定される権利を有する。」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_001.html 



■どこで使われる考え方・用語?

定義からも分かるように,無罪推定は,本来的には

(1)刑事裁判(刑事訴訟手続)における

(2)国家と国民との関係について

適用される考え方・用語です。


ですから,無罪推定は民事事件(民事訴訟手続)に直接適用される考え方ではありません

つまり,無罪推定は,公務員や民間の懲戒免職や,刑事事件に関する報道に直接適用される訳でありません。


ですが,無罪推定の原則の「趣旨」・「精神」は,報道における名誉棄損等にも妥当すると裁判所は考えています。

つまり,刑事事件の判決が確定する前の段階――逮捕されたり,起訴されたに過ぎない段階――で,その被疑者(容疑者)や被告人の名誉を毀損するような発言や報道をすれば,名誉棄損が成立すると裁判所は考えています。



■裁判例(いずれも太字は引用者)

◎大阪地判平成25年9月4日(平成23年(行ウ)第139号) 

無罪推定が刑事手続に適用されることを判示した判決です。尚,この事件の原告は, 大阪地検証拠改竄事件で懲戒免職された特捜部副部長です。

 「3 本件各処分が無罪推定原則に違反するか
 原告は,原告が刑事事件で犯人隠避を行ったことを否認し,かつ,本件各処分の処分事由についても一貫して否認しているのであるから,本件各処分は無罪推定の原則及びこれを定めた国際人権B規約14条2項に反すると主張しているが,無罪推定の原則及びこれを定めた国際人権B規約14条2項は,国の刑罰権の発動を前提とする刑事手続において妥当するものであり,公務の信頼の確保及び公務秩序維持という刑事手続とは別の観点から行われる懲戒処分について妥当するものではない。
 したがって,本件各処分が無罪推定の原則及び国際人権B規約14条2項に反するとの原告の主張は失当である。」


◎横浜地判平成22年8月27日(平成18年(ワ)第4749号)

たとえ,起訴されたとしても,それだけでは被告人=犯人と断定することはできない,という原則を判示した判決です。

「しかしながら,起訴は検察官の意見の表明であって,我が国の刑事裁判においては無罪推定の原則が採られていることからすれば,その有罪率がいかに高いものであったとしても,未だ起訴されたにとどまる段階で,直ちにその者が犯人であると判断できるものでないことはいうまでもない。」


◎東京地判平成19年7月24日(平成18年(ワ)第18242号)

たとえ,第1審の判決が出ているとしても,その判決が確定していなければ,報道機関はその内容を当然に真実としてはいけない,ということを判示した判決です。

「しかし,原告が本件雑誌発売より後の平成14年10月1日に,本件刑事判決を受けていること自体は認められ,一般に刑事事件における認定された事実が相当の根拠をもって認定されたということが推認されるとしても,被告も自認するように,原告は現在上告中であり,本件刑事判決は確定していないのであるから,今後原告に対する刑事手続の帰趨がどうなるかは別として,いわゆる無罪推定の原則の精神に鑑みれば,原告が本件刑事判決を受けていることのみをもって,摘示事実の内容を真実であるとまでは認めることはできないし,他に,本件証拠上,この点に関する摘示事実が真実であることを認めるに足りる証拠はない。」


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