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【メモ】安保法案の議論に関する小さな交通整理 ――「対案を出せ」という主張の当否を題材に

■今回のテーマは何?

以前にもご説明したことがありますが,集団的自衛権をはじめとする安保関連の話題は,議論が錯綜しがちです。

1分で分かる「集団的自衛権を議論する為の大前提」|sho_ya|note
https://note.mu/sho_ya/n/n3e32eb559003

最近も「安保法案に反対なら,対案を出せ」という意見を耳にしました。そして,この「対案を出せ」という主張自体に対する反対意見も出ているようです。

そこで,今回は,「対案を出せ」という主張の当否――ひいては安保法案についての大局的な視点――を考えるための参考情報をご提供したいと思います。



■「対案を出せ」という主張が「成立」するための前提

「対案を出せ」という主張が「成立」するためには

「一定期間内に何らかの結論を出さなくてはならない。」

「短期間で現状を修正しなくてはならない。」

という前提が存在することが基本的に必要です。

つまり,一定期間(短期間)で結論を出す or 修正をしなければならないからこそ,「単なる反対」が許容されないのです。

例えば,明日までに企画書を作成しなければならず,社員が会議室で知恵を絞っているという状況では「単なる反対」は通常は受け入れられません。なぜならば,それでは,企画書作成というタスクが前に進まないからです。そして,企画書作成は所与の前提であり,企画書作成を進行することは当然に是とされます。



■安保法案の場合

「安保法案も上掲の企画書の状況と同じ」と言えれば,「対案を出せ」という主張は的を射た主張になります。

但し,ここで注意していただきたいのは,安保法案の場合,歴史的経緯や感情的な要素もあり,議論が錯綜してしまっているということです。

そのため,以下の説明も,少し長くなります。


ところで,法解釈や法改正を検討する場合には,「必要性」と「許容性」という2つの視点から問題をとらえることが有益です。

そして,安保法案における「必要性」の議論とは,要するに,拙稿で指摘した「実体論」の議論です。

また,安保法案における「許容性」の議論とは,要するに,拙稿で指摘した「解釈論」と「手続論」の議論です。

https://note.mu/sho_ya/n/n3e32eb559003

「集団的自衛権については,大きく分けて3つの違うテーマがからんでいます。
第1は,憲法の話は横に置いておいて,集団的自衛権というものが現在&将来の日本にとって有益なのか,これを認めた方が国益になるのかというテーマです(実体論)。
第2は,そもそも,現行憲法は集団的自衛権を許容しているのかというテーマです(解釈論)。
第3は,憲法改正という手続ではなく閣議決定による解釈変更という手続が妥当なのかというテーマです(手続論)。」

現在の議論をざっと見ると,「対案を出せ」という主張をされる方の多くは,この「必要性」の部分(実体論)を重視され,「許容性」の部分(解釈論や手続論)を軽視されています。

つまり,「対案を出せ」と主張されている方々は,「国益の維持増大のために,早急に安保法案を成立させる必要がある」という要請が妥当すると考えておられます。そして,この要請が妥当するならば,まさに安保法案は,上掲の「明日までに企画書」と同様の状況にあると言えます。

したがって,この立場の場合,「対案を出せ」という主張は当を得ていることになります。


他方,「対案を出せ」という主張に反対される方の多くは,この「許容性」の部分(解釈論や手続論)を重視され,「必要性」の部分(実体論)を軽視されています。

つまり,「対案を出せ」という主張に反対されている方々は,「安保法案は憲法という国家の最高法規に反するものである(or 反する疑いが濃厚である)以上,そもそも廃案にする必要がある(or 慎重に議論する必要がある)」という要請が妥当すると考えておられます。そして,この要請が妥当するならば,安保法案は,上掲の「明日までに企画書」とは全く異なる状況にあると言えます。

したがって,この立場の場合,「対案を出せ」という主張は的を射ていないことになります。



【私見】
尚,余談ですが,法律家としての観点からすると,安保法案は違憲である可能性が極めて強いため,後者の考え方が妥当だと思われます。つまり,「対案を出せ」という主張は,憲法の意義を十分には理解していないのではないかという疑念を禁じえません。

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