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情報や考えを図解する「ダイアグラム思考」なら伝わる

仕事で「うまく伝わらない」ときほど、悔しい気持ちになる瞬間はありません。

プレゼンで思ったようにアイデアが伝わらないときや、連絡・報告で言ったこととは違う解釈をされてしまったときなど、どうしてこんなに伝わらないのかとため息が出ます。

そんな悩みを解決する方法として、デジタルコンサルタントとしての知見を活かしながら図解の社会実装に注力している高野雄一さんの著書『ダイアグラム思考 次世代型リーダーは図解でチームを動かす』(翔泳社)があります。

本書でテーマとなっているダイアグラム思考とは、「図形や文字を用いてモノゴトを多視点から構造化して可視化する思考法」です。

文章が詰め込まれたスライドで伝えたいことが真に伝わるかといえば、答えは明白。一方で、言葉足らずではそもそも何も伝わりません。自分が情報を受け取る立場になっても同じで、伝えるにも受け取るにも適切な方法が必要です。

その方法がダイアグラム思考です。そして、ダイアグラム思考にはモード1とモード2があります。

モード1は、情報を図解することで、自分の頭へ「インプット」するための思考法です。
「モード2」は、頭の中にある情報を図解によって、「アウトプット」するための思考法です。

本書より
図1 モード1とモード2の特徴

図解が情報発信や理解において役立つことは誰でもなんとなく知っているかもしれません。ですが、実際にどうやればいいのか分からない、図や絵を描くのが苦手・面倒、という「やらない理由」もたくさんあります。

しかし、それ以上に実践することのメリットは大きい、と著者の高野さんは書かれています。特に、サブタイトルにあるように次世代のリーダーには情報を過不足なく伝え、また理解するための方法としての図解が不可欠の能力なのです(たとえリーダーを目指していなくても、図解は役立ちます)。

今回は本書から、ダイアグラム思考のモード2(アウトプットのための思考法)の具体的なやり方を紹介します。

ぜひ試してみて、もっと深く知りたい、モード1もやってみたいと感じたら、本書をチェックしてみてください。

◆著者について
髙野雄一(たかの・ゆういち)

「日本を図解先進国にする」をVision に掲げ、Metagramを創立。図解を普及させるためにビジネスとアカデミアの両サイドからのアプローチによって、「ダイアグラム思考」を創案。アカデミアでは、慶應義塾大学大学院SDM 研究科研究員として図解への理解を深め、東京理科大学オープンカレッジの講師として、図解の普及活動を続けている。ビジネスでは、元富士通Japan のデジタルコンサルタントとしての知見を活かしながら、図解の社会実装のためのトライ&エラーを最前線で繰り返している。


ダイアグラム思考のトレーニング

99.5%。この数字は「課長がプレイヤーとマネージャーを兼任している」割合です。どちらかに専念できるリーダーは日本にはほとんどいないのが現状です。

ダイアグラム思考「モード2」の図解は、アウトプットにおける「相手に共有するため」に働かせる思考です。図解はマネージメントだけでなく、プレイヤーとしても活躍するためにも有効なツールです。

今回は、次のような自己紹介シーンを想定して、どのように図解をしていくのか解説していきます。

あなたの名前は図解太郎さんです。
あなたは転職をして、新しい会社に中途入社しました。
仕事も一巡したころ、改めて人事の方から、全社集会で自己紹介をしてもらうよう依頼されたので、これまでのキャリアをまとめて、原稿を作ってみました。
しかし、なんだか文字が多くて、自分のメッセージがまとまりません。1枚だけならパワポのスライドを使っていいとのことなので、図解スライドを使って自己紹介してみようと思います。

そして、次のような文字だらけの原稿を、どのように図解していくのかにトライしてみましょう。

図解太郎と申します。私の自己紹介をします。
大学卒業後は外資系企業で戦略コンサルタントに従事していました。コンサルタントの仕事はとても激務でしたが、優秀な先輩方から仕事の基本を学べました。特にマーケティング領域でのコンサルを主業務としており、がむしゃらに働いていた記憶が今でもよみがえります。

その後コンサルタントでお世話になったお客様から紹介を受けて家電メーカーのマーケティング部門へ転職しました。元々マーケティングに興味があったのと、ものづくりに携わりたいという気持ちから転職を決意しました。製造業のことはわからないことだらけだったのですが、コンサル時代に身につけていた戦略マーケティングの知見はこの会社で十分に発揮できました。ワークライフバランスも充実しており、自分のペースで働くことができました。

そして、入社したばかりのこの会社では会話ロボットを開発しているスタートアップ企業としてマーケティング担当となりました。これまでBtoBマーケティングばかりだったのですが、かねてから興味のあったBtoCマーケティングができることにやりがいを感じています。多忙さで言うとちょうど1社目と2社目の間くらいですが満足しています。

3つの会社はどれもビジネスの内容は異なりますが、マーケティングという共通点があります。1社目で基礎を学び、2社目で一人前になり、3社目では後輩の育成にもチャレンジしています。今後もより多くの人に自社や製品を知ってもらうという活動に注力したいと思っています。

STEP1:モード選択

ダイアグラム思考の基本中の基本である、モード選択から始めていきます。今回は、ほかの人に自分のことを伝えたい「1 to N」のパターンです。よって、ダイアグラム思考「モード2」を選択します。

※編注
「1 to N」とはプレゼンテーションや成果発表、勉強会や講習での登壇など、話し手・伝え手が複数人の聴き手に向けて情報を伝えること。

早速、メッセージの「ワンライン化」から始めていきます。今回の自己紹介原稿は情報量が多く、全体を図解しようとすると混乱してしまいます。まずは、冷静になって、特に伝えたいメッセージは何かを追求します。

※編注
「ワンライン化」とは、情報から無駄な部分を削り出してメッセージを1行で抽出すること。

例えば、この原稿から以下のようなメッセージが抽出できます。

Ⓐ 私のキャリアは3つの会社を経ている
Ⓑ 私は3つの会社による経験でマーケティングスキルを身につけた
Ⓒ 私は学び、忙しさ、業態が分類される3つの会社でマーケティングを経験した
Ⓓ 私は忙しさと業態が異なる3つの会社でマーケティングを経験した
Ⓔ 私のマーケティングスキルは3社での経験の賜物だ
Ⓕ 私のマーケティングスキルは3社での経験により成長している

どのメッセージに絞り込みたいのかは、「あなたの意思」によって異なります。

異なる3つの会社を経験しているという知見の多さをアピールしたいなら、Ⓐのメッセージを抽出します。

マーケティングスキルの豊富さをアピールしたいのであれば、Ⓑのメッセージを抽出するとよいです。

このように、「モード2」の図解は自分の気持ちに従って素直にメッセージをワンライン化してみることがコツです。

問題となるのは、メッセージを選んだあとの「クリスタライズ」です。

※編注
「クリスタライズ」とは、情報源からメッセージに関係のない部分を躊躇なく削っていくこと。

例題の原稿は情報量が多いので、ワンライン化したメッセージ以外の情報を削り取ると、格段に図解がしやすくなります。今回は、例として上記メッセージのⒸとⒹをクリスタライズしてみましょう。

次の図はⒸのメッセージに従って「クリスタライズ」した原稿です。こうしてみると、メッセージに関係のない情報がほとんどを占めていることがわかります。

図2 Ⓒ 私は学び、忙しさ、業態が分類される3つの会社でマーケティングを経験した

次の図はⒹのメッセージに従って「クリスタライズ」した原稿です。先ほどのⒸのメッセージのときよりも、さらに情報を削り取れています。これくらい思い切って情報をシンプルにしていきます。

図3 Ⓓ 私は忙しさと業態が異なる3つの会社で マーケティングを経験した

図解のコツは欲張らないことです。すべての情報を1つの図解に収めることはできません。必ずメッセージを絞り込んでから「クリスタライズ」する習慣をつけましょう。

STEP2:カテゴライズ

次に、ビジュアルカテゴリ一覧を見ながらサクッとカテゴライズしていきます。

図4 7つのビジュアルカテゴリ

STEP1のⒶ~Ⓕのメッセージはそれぞれ以下のようにカテゴライズできます。

Ⓐ 推移:私のキャリアは3つの会社を経ている
Ⓑ 構成:私は3つの会社による経験でマーケティングスキルを身につけた
Ⓒ 分類:私は学び、忙しさ、業態が分類される3つの会社でマーケティングを経験した
Ⓓ 比較:私は忙しさと業態が異なる3つの会社でマーケティングを経験した
Ⓔ 範囲:私のマーケティングスキルは3社での経験の賜物だ
Ⓕ 階層: 私のマーケティングスキルは3社での経験により成長している

ここで注意したいのは、メッセージ抽出だけでなく、カテゴライズに関しても明確な正解はないということです。例えば、Ⓔのメッセージは、「範囲」でも「構成」でも、どちらのカテゴリにも当てはめることができそうです。

選択したカテゴリによって、最終的な図解の形は大きく変わりますが、「形態は機能に従う」というルイス・サリヴァンの言葉を思い出しながら、自分のメッセージが最も相手にとってわかりやすく、正確に、素早く伝わる図解に出会うまで、何度でも描き直してみましょう。

STEP3:ビジュアライズ

最後に、「STEP3:ビジュアライズ」の3つのアクションに沿って図解していきます。

今回は例として、Ⓕの「階層:私のマーケティングスキルは3社での経験により成長している」をビジュアライズしてみましょう。

「階層=ピラミッド図」を描くための3つのアクションを、次の図を参照しながら確認します。

図5 ピラミッド図を描くための3つのアクション

ピラミッド図を描くための1つ目のアクションは、「フレームを描く」です。

自己紹介原稿を読み返してみると、図解太郎さんはマーケティングスキルを「3階層」に分類していそうなことがわかります。まずは、3つの階層があるピラミッドを描きましょう。

ここでも、必ず3つの階層があるという正解を出す必要はありません。

この時点で4つの階層があると思ったら、実は3つしかなかったということもよくあります。図解は戻ることを前提でラフに描いてみるマインドが重要です。

図6 ピラミッド図のアクション1

2つ目のアクションは、「軸を描く」です。ピラミッドの隣に、階層が上がるほどどうなるのか、下がるほどどうなるのかを示す縦軸を描きましょう。

今回は次の図のように「マーケティングスキル」の成長を図示したいので、記載します。このアクションは忘れやすいので要注意です。

図7 ピラミッド図のアクション2

すでにピラミッド図の輪郭は見えてきましたね。それでは最後のアクション「階層をプロットする」で、仕上げていきます。次の図のように各層のステータスをプロットします。余裕があれば、各ステータスを補足説明するような情報も追加しておきましょう。

図8 ピラミッド図のアクション3

そして、図解タイトルを忘れにつけておきます。今回はシンプルに「私のマーケティングキャリア」とつけておきましょう。

これでピラミッド図の完成です。

図解の振り返り

完成した図解を見ながら振り返りをしてみましょう。

せっかく完成したピラミッド図は発表用に取っておきます。もし、パワーポイントなどで図解していたならば、この図をコピーして「振り返り用の図」を用意します。こうすることで、気兼ねなく図にメモを描き加えることができます。

例えば、次の図のように、振り返りをすることで、「今よりマーケティングスキルが成長したらどうなるのか」という、未来について考えることができます。ほかには、ピラミッド図の下部に注目することで「自分がマーケティングに興味を持ったきっかけ」を振り返るきっかけにもなります。

図9 図を振り返る

◆本書の目次
Chapter 1 なぜダイアグラム思考が必要なのか

次世代型リーダーになるためには「図解」が必要
モノゴトを多視点から観察する力
モノゴトを構造化してシンプルにする力
モノゴトを可視化して共有する力
3つのスキルの関係性

Chapter 2 図解を知る
図と図解の違い
図の種類
なぜ図で考えることをやめてしまうのか

Chapter 3 ダイアグラム思考とは
モード1とモード2
モード1:インプットするための図解
モード1の利用シーン
モード1のメリット
マインドセットとしてのモード1
モード2:アウトプットするための図解
モード2の利用シーン
モード2のメリット
マインドセットとしてのモード2

Chapter 4 ダイアグラム思考のプロセス
STEP1モードの選択
情報のクリスタライズ
STEP2カテゴライズ
ビジュアルカテゴリは図を最適化する
STEP3ビジュアライズ
とにかくシンプルにする
図解の本質は振り返り

Chapter 5 7つのビジュアルカテゴリ
比較=2軸図/2軸図の描き方/2軸図のコツ
推移=プロセス図/プロセス図の描き方/プロセス図のコツ
階層=ピラミッド図/ピラミッド図の描き方/ピラミッド図のコツ
分類=マトリクス図/マトリクス図の描き方/マトリクス図のコツ
構成=ツリー図/ツリー図の描き方/ツリー図のコツ
相関=モデル図/モデル図の描き方/モデル図のコツ
範囲=ベン図/ベン図の描き方/ベン図のコツ

Chapter 6 ダイアグラム思考のトレーニング
モード1のトレーニング
モード1の実践
モード2のトレーニング
モード2の実践
次世代型リーダーと図解

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