情報や考えを図解する「ダイアグラム思考」なら伝わる
仕事で「うまく伝わらない」ときほど、悔しい気持ちになる瞬間はありません。
プレゼンで思ったようにアイデアが伝わらないときや、連絡・報告で言ったこととは違う解釈をされてしまったときなど、どうしてこんなに伝わらないのかとため息が出ます。
そんな悩みを解決する方法として、デジタルコンサルタントとしての知見を活かしながら図解の社会実装に注力している高野雄一さんの著書『ダイアグラム思考 次世代型リーダーは図解でチームを動かす』(翔泳社)があります。
本書でテーマとなっているダイアグラム思考とは、「図形や文字を用いてモノゴトを多視点から構造化して可視化する思考法」です。
文章が詰め込まれたスライドで伝えたいことが真に伝わるかといえば、答えは明白。一方で、言葉足らずではそもそも何も伝わりません。自分が情報を受け取る立場になっても同じで、伝えるにも受け取るにも適切な方法が必要です。
その方法がダイアグラム思考です。そして、ダイアグラム思考にはモード1とモード2があります。
図解が情報発信や理解において役立つことは誰でもなんとなく知っているかもしれません。ですが、実際にどうやればいいのか分からない、図や絵を描くのが苦手・面倒、という「やらない理由」もたくさんあります。
しかし、それ以上に実践することのメリットは大きい、と著者の高野さんは書かれています。特に、サブタイトルにあるように次世代のリーダーには情報を過不足なく伝え、また理解するための方法としての図解が不可欠の能力なのです(たとえリーダーを目指していなくても、図解は役立ちます)。
今回は本書から、ダイアグラム思考のモード2(アウトプットのための思考法)の具体的なやり方を紹介します。
ぜひ試してみて、もっと深く知りたい、モード1もやってみたいと感じたら、本書をチェックしてみてください。
ダイアグラム思考のトレーニング
99.5%。この数字は「課長がプレイヤーとマネージャーを兼任している」割合です。どちらかに専念できるリーダーは日本にはほとんどいないのが現状です。
ダイアグラム思考「モード2」の図解は、アウトプットにおける「相手に共有するため」に働かせる思考です。図解はマネージメントだけでなく、プレイヤーとしても活躍するためにも有効なツールです。
今回は、次のような自己紹介シーンを想定して、どのように図解をしていくのか解説していきます。
そして、次のような文字だらけの原稿を、どのように図解していくのかにトライしてみましょう。
STEP1:モード選択
ダイアグラム思考の基本中の基本である、モード選択から始めていきます。今回は、ほかの人に自分のことを伝えたい「1 to N」のパターンです。よって、ダイアグラム思考「モード2」を選択します。
早速、メッセージの「ワンライン化」から始めていきます。今回の自己紹介原稿は情報量が多く、全体を図解しようとすると混乱してしまいます。まずは、冷静になって、特に伝えたいメッセージは何かを追求します。
例えば、この原稿から以下のようなメッセージが抽出できます。
Ⓐ 私のキャリアは3つの会社を経ている
Ⓑ 私は3つの会社による経験でマーケティングスキルを身につけた
Ⓒ 私は学び、忙しさ、業態が分類される3つの会社でマーケティングを経験した
Ⓓ 私は忙しさと業態が異なる3つの会社でマーケティングを経験した
Ⓔ 私のマーケティングスキルは3社での経験の賜物だ
Ⓕ 私のマーケティングスキルは3社での経験により成長している
どのメッセージに絞り込みたいのかは、「あなたの意思」によって異なります。
異なる3つの会社を経験しているという知見の多さをアピールしたいなら、Ⓐのメッセージを抽出します。
マーケティングスキルの豊富さをアピールしたいのであれば、Ⓑのメッセージを抽出するとよいです。
このように、「モード2」の図解は自分の気持ちに従って素直にメッセージをワンライン化してみることがコツです。
問題となるのは、メッセージを選んだあとの「クリスタライズ」です。
例題の原稿は情報量が多いので、ワンライン化したメッセージ以外の情報を削り取ると、格段に図解がしやすくなります。今回は、例として上記メッセージのⒸとⒹをクリスタライズしてみましょう。
次の図はⒸのメッセージに従って「クリスタライズ」した原稿です。こうしてみると、メッセージに関係のない情報がほとんどを占めていることがわかります。
次の図はⒹのメッセージに従って「クリスタライズ」した原稿です。先ほどのⒸのメッセージのときよりも、さらに情報を削り取れています。これくらい思い切って情報をシンプルにしていきます。
図解のコツは欲張らないことです。すべての情報を1つの図解に収めることはできません。必ずメッセージを絞り込んでから「クリスタライズ」する習慣をつけましょう。
STEP2:カテゴライズ
次に、ビジュアルカテゴリ一覧を見ながらサクッとカテゴライズしていきます。
STEP1のⒶ~Ⓕのメッセージはそれぞれ以下のようにカテゴライズできます。
Ⓐ 推移:私のキャリアは3つの会社を経ている
Ⓑ 構成:私は3つの会社による経験でマーケティングスキルを身につけた
Ⓒ 分類:私は学び、忙しさ、業態が分類される3つの会社でマーケティングを経験した
Ⓓ 比較:私は忙しさと業態が異なる3つの会社でマーケティングを経験した
Ⓔ 範囲:私のマーケティングスキルは3社での経験の賜物だ
Ⓕ 階層: 私のマーケティングスキルは3社での経験により成長している
ここで注意したいのは、メッセージ抽出だけでなく、カテゴライズに関しても明確な正解はないということです。例えば、Ⓔのメッセージは、「範囲」でも「構成」でも、どちらのカテゴリにも当てはめることができそうです。
選択したカテゴリによって、最終的な図解の形は大きく変わりますが、「形態は機能に従う」というルイス・サリヴァンの言葉を思い出しながら、自分のメッセージが最も相手にとってわかりやすく、正確に、素早く伝わる図解に出会うまで、何度でも描き直してみましょう。
STEP3:ビジュアライズ
最後に、「STEP3:ビジュアライズ」の3つのアクションに沿って図解していきます。
今回は例として、Ⓕの「階層:私のマーケティングスキルは3社での経験により成長している」をビジュアライズしてみましょう。
「階層=ピラミッド図」を描くための3つのアクションを、次の図を参照しながら確認します。
ピラミッド図を描くための1つ目のアクションは、「フレームを描く」です。
自己紹介原稿を読み返してみると、図解太郎さんはマーケティングスキルを「3階層」に分類していそうなことがわかります。まずは、3つの階層があるピラミッドを描きましょう。
ここでも、必ず3つの階層があるという正解を出す必要はありません。
この時点で4つの階層があると思ったら、実は3つしかなかったということもよくあります。図解は戻ることを前提でラフに描いてみるマインドが重要です。
2つ目のアクションは、「軸を描く」です。ピラミッドの隣に、階層が上がるほどどうなるのか、下がるほどどうなるのかを示す縦軸を描きましょう。
今回は次の図のように「マーケティングスキル」の成長を図示したいので、記載します。このアクションは忘れやすいので要注意です。
すでにピラミッド図の輪郭は見えてきましたね。それでは最後のアクション「階層をプロットする」で、仕上げていきます。次の図のように各層のステータスをプロットします。余裕があれば、各ステータスを補足説明するような情報も追加しておきましょう。
そして、図解タイトルを忘れにつけておきます。今回はシンプルに「私のマーケティングキャリア」とつけておきましょう。
これでピラミッド図の完成です。
図解の振り返り
完成した図解を見ながら振り返りをしてみましょう。
せっかく完成したピラミッド図は発表用に取っておきます。もし、パワーポイントなどで図解していたならば、この図をコピーして「振り返り用の図」を用意します。こうすることで、気兼ねなく図にメモを描き加えることができます。
例えば、次の図のように、振り返りをすることで、「今よりマーケティングスキルが成長したらどうなるのか」という、未来について考えることができます。ほかには、ピラミッド図の下部に注目することで「自分がマーケティングに興味を持ったきっかけ」を振り返るきっかけにもなります。
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