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P&G PANTENE #この髪どうしてダメですか

2019年に業界を超えて話題になったP&Gのコミュニケーション事例。
「問題提起型」のコミュニケーション手法であり、一歩間違うと炎上し、ブランド棄損のリスクもある中、消費者のモーメントを捉え、建設的な方向に話題を拡散させた好事例である。何が良かったか、3つの特徴から考察してみたい。

①適切なモーメント/コミュニケーション時期
絶対に外してはならないのはこのポイントだ。ここを企業事情で読み違えたり逃したりしてしまうと、炎上どころか無風で終わるキャンペーンも数多い。「#この髪どうしてダメですか」の場合、入学式/新学期がそのモーメントとなる。この時期に、学校や校則にもよるものの、未だに多くの学生が、模範的な髪型を押し付けられる。実際、本施策の中で、「地毛証明書を出す」「地毛であっても、茶色い場合は黒く染める」といった具体的な事例が取り上げられ、その意見を世の中に投げかけている。最適なモーメントと言ってよい。

加えて、近年は、SNSが発達し、新学期を迎える学生だけでなく、子供を持つ親が、学校やPTAなどの理不尽な校則、規則、慣習を問題提起し、賛否両論を巻き起こすなど、話題が醸成しやすい土台もある。

本事例の場合、中学高校の卒業式が集中する3/18にプレスリリースを発信し、新学期に向けた春休みのシーズンを準備期間となるティザー期と置き、徐々に盛り上げを作りながら、本番の新学期を迎えるというコミュニケーション設計になっている。

②対等な視点/練られた構成とファクト
本施策は、生徒の視点から一方的に学校の理不尽を糾弾し、煽るものではない。むしろ、教師が生徒のために悩みながらも葛藤する姿も見て取ることができる。動画の中でも見て取れるが、偏った感情移入をさせるのではなく、双方の視点をバランスよくみることができるから、建設的な方法に、一般ユーザーを誘導することができている。

③議論とブランド関与の工夫

昨日の西武・そごうの事例は、広告の賛否両論で一般ユーザーが盛り上がる一方、西武・そごう自体がその波を活かしきれていない勿体なさを指摘した。その点、PANTENEは上手に、中立な立ち位置でコミュニケーションに入り込んでいる。

公式動画再生数は1,200万視聴を超え、動画へのコメントは3,000件を超えている。近年、企業動画がバズると、Owned Mediaのオフィシャル動画ではなく、一般ユーザーの転載動画の方が視聴回数を伸ばしてしまう悲しい事例も少なくないが、PANTENEは長尺動画と短尺動画を用意し、公式SNSから頻繁に発信するなど先行した動きを取り、それを防いでいる。また、派手な施策は行っていないものの、公式Twitterでは、カンバセーショナルカード(アンケート機能)を活用し、一般ユーザーから意見を募ったり、ユーザーの意見を紹介したりなど、司会進行役のような役割を一貫して担っていたように思える。

参考:カンバセーショナルカード投稿
https://twitter.com/PanteneJapan/status/1108020300585660416?s=20


まとめ

P&Gの事例は、「問題提起型」というリスクも含む手法と書いたが、最後に大事なこととして、PANTENEのブランドそのものの意義について触れておきたい。

詳しい方はご存知と思うが、PANTENEの問題提起型コミュニケーションは、2019年にいきなり始めたものではない。前年の2018年には、「#1000人の就活生のホンネ」プロジェクトという、就活生にフォーカスしたコミュニケーションがあり、同じように賛否両論と多くの共感を獲得するなど、既に強い基盤を持っていた。

PANTENEは『ひとりひとりが、なりたい髪を叶えるために。』というブランドの使命を持っており、ありがちな製品の機能訴求や情緒訴求に無理に落とすのではなく、なりたい髪を皆で模索し、議論すること自体が、PANTENEのブランド価値に繋がるといった、達観した姿勢を取っているように思える。従って、強い使命を持ったPANTENEだからこそ、問題提起として、広く呼び掛ける必然性があり、他ブランドと強烈な差別化が図れていると思う。
この考え方自体、パーパスドリブンマーケティングとも呼べるが、長くなりそうなので、また今度。


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