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「チップの行方」

 海外に行くと様々な所でチップが発生する。この風習に慣れていない我々日本人は、「あれ?まだくれないの?」といった顔でポカンと見つめられ、「チップ頂戴!」と態度で示されない限り気付かない時もる。

 *サービス料込みの意味

 旅館やホテルを予約すると「税・サービス料込」と言った文字を目にする。「税」は内税で別途消費税等は徴収しないと言う意味だが、「サービス料」って何?と考えた時、私の解釈は「お客様のご滞在中、不自由なく過ごして頂ける様に準備はしておりますが、もしも何かお困りでしたら何なりと仰って下さい。出来る限り対応させて頂きます。」と言った意味で、例えばチェックアウト後のタクシーの手配や、観光したいのでマップが欲しいと言われればコピーしてお渡しする。ご高齢のお客様が階段の昇降でお困りなら手を差し伸べる。外国からのお客様がエアコンのリモコン操作でお困りならお部屋まで行き対応する等、語ればキリがない。
 私からすれば、これらのお客様への対応は「仕事の範囲内」であり、こう言ったご要望やご依頼が無ければ私がそこで働いている意味もない。しかし海外ではそうではない様だ。

 以下、私が経験した3つのチップ事情をお話します。

 

*メキシコの「スザーナさん」

 サラリーマンだった27歳の時、メキシコの製鉄所で大きなプラント設備を新設するプロジェクトに参加した。初めての海外出張で緊張しスペイン語など全く喋れないくせに日本人エンジニアとして2週間程過ごした。
 

 会社は古いコンドミニアムを用意してくれて、不慣れな私に気遣って両サイドのお部屋にはスペイン語を話せる日本人スタッフを配置してくれた。朝その日本人と同じバスで通勤。帰りは各々退社時間が異なるのでタクシーで帰宅する。コンドミニアムには一人メイドが専属で付いて、ベッドメイクや室内清掃と下着以外の洗濯をしてくれる。夕食は口が合わないので断った。
 

 殆ど仕事で出掛けているし、洗濯物もシャツ1枚と靴下ぐらい。ベッドも毎日シーツ交換してもらわなくて良いのだが、何故かメイドは毎日朝と夜現れる。毎朝の出勤前「ベッドメイクのチップ」として¥200程度渡して出社、夕方部屋に戻るとトントンとノックと共に夜また来る。「夕食は要らないよ」と言うとコーヒーを入れてくれて一緒にサッカー中継を観る。

 3日ぐらい経った夜、隣の部屋から「営み」の声が聞こえた!ホテルでよくある有料エ〇チャンネルがあるのか?と確認するが、サッカー中継とニュースだけ。メイドがニコリと笑って見つめている。翌朝気になってお隣に住む日本人エンジニアに尋ねた「〇〇さん、昨日気になる声が聞こえましたが何チャンネルですか?」すると信じられない言葉が・・・。

 「君、メイドさんは奥さんだよ!」

 メイドが夜も来る理由がわかったのだが、私は当時27歳(今から25年前)の若輩者。初めての海外出張であったし、大きな仕事を任されて「やってやる!」と言う闘志と責任感に満ちていた。彼女には悪いが夜のお勤めも断り、代わりに美味いお店とサッカースタジアムへの案内をお願いをした。

 夜のチップは¥1000程度で、この金額は当時のメキシコなら1日充分過ごせる金額。「スザーナさん💛」今思えば勿体なかったかなww

 

*アユタヤの象使い

 以前載せた「タイ人の強かさに共感する」で記したアユタヤの旅で世話になった象さん。暑い中オッサン二人を乗せ30分程楽しませてくれた。料金は値切って値切って500バーツぐらいだった記憶。コロナ前のアユタヤはガラガラで象にとっては「楽チン」な毎日だったであろう。しかし、人間にとっては死活問題で、値切られても乗って欲しい心境。

 象乗り場のお姉ちゃんも、象使いのオジサンも暑さでぐったりしている状況でオッサン二人はウキウキ象に乗る。初めての象乗りは決して乗り心地は良いとは言えず、高みの見物気分だけは味わえた。30分の象乗りで途中象がちょっとした芸をしたり、象使いが我々のカメラで記念写真を撮ってくれる。良い思い出である。

 いよいよ終了となる象乗り場の手前で突如の象停止。象使いからチップの催促。「いいよ」と一人100バーツのチップを渡した。しかし引き下がらない。「これでは象のエサが買えない。この象は空腹です(ここで象の鼻を蹴るとパオ~ンと鳴く。これも芸)。」これを観て追加の100バーツを渡す。本来「最初の500バーツでエサ代もオジサンのサラリーもまかなえているやろ!」とも思うが、象の優しい瞳と可愛い芸に負けて渡してしまう。

 その後近くの屋台でビールを飲みながらガパオライスを食べていると知人が「象の写真もうちょい撮りましょう」と言うので再び象乗り場へ。

 オジサンはクシャクシャの100バーツ紙幣を握り仲間とトランプをしていた。


 *親切なキャディ

 バンコクでは数えきれない程ゴルフを楽しんでいる。タイのゴルフはプレーヤー1人に対して1人のキャディが付く。日本なら4名1組までのプレーが6名1組で回れる。この場合プレーヤー6名とキャディ6人で総勢12名の大所帯!ティーグランドやグリーン上は人だらけ。とても賑やかなゴルフになる。

キャディ

 タイのゴルフはお約束でプレー終了後にキャディにチップを渡す。相場は500バーツ程度。彼女達の月収に占めるチップの割合は相当大きいと聞く。一度妊婦のキャディにお世話になった事があり、その時は「産まれてくる赤ちゃんに」と500バーツ追加で渡した。すると「双子なの(^^♪」と言われ「嘘つけ!」と思いながらまた500バーツ渡した事もあった。

 キャディはこの500バーツを有効に使う。我々のチップを元手に「賭ける」のだ。チップ全額ではなくその中から数百バーツを出し、我々を馬に見立て単勝・馬単など様々な賭け方があるらしい。勿論、ゴルフ故それぞれの腕前はバラバラ。キャディ達はほんの数ホール我々のプレーを見ただけで、「ハンディキャップ」を決定する。賭けられているとも知らずに一生懸命プレーする我々「馬」は何とも情けない気もするが、暑い中我々プレーヤーに尽くしてくれる彼女達の姿を見れば無礼だとは思わないし、良いスコア、良いプレーを共に一喜一憂してくれるパートナーなのでむしろ楽しい。

 チップとは元々なぜ発生するのか?私の考えは前記した「サービス料込み」的な発想で、それがオモテナシだとするところがある。しかし諸外国のチップ事情は「あなたのために特別に尽くしてあげた対価なの」と言わんばかりの自信で堂々と拝借する。

 どちらも良い文化的思考だと思う。




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