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「SFの父」ジュール・ヴェルヌという男

『海底二万マイル』に『センター・オブ・ジ・アース』。東京ディズニーシーの「ミステリアス・アイランド」でこれらのアトラクションを楽しんだことがある人は多いでしょう。

これらのアトラクションの共通点は、どちらも「ジュール・ヴェルヌ」の作品をもとにして作られたものであるということ。

このジュール・ヴェルヌとはどのような人物で、どのような作品を残しているのでしょうか。振り返ってみましょう。

「SFの父」ジュール・ヴェルヌとは何者か

ジュール・ヴェルヌは、フランス西部のナントに生まれた作家で、「空想科学小説の父」「SFの父」とも呼ばれています。

ヴェルヌは、子供のころから冒険小説や旅行記を読みふけり、未知の世界に憧れていました。彼が36歳のときに発表した『気球に乗って5週間』により、ブレイク。以降、ベストセラー作家として多数の作品を残すことになります。特に有名な作品として、『2年間のバカンス(十五少年漂流記)』や『海底2万マイル』などが挙げられます。

彼の作品は今もなお、古典的名作として世界中から愛されています。

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ジュール・ヴェルヌ著書と関連書籍。写真は高円寺・JUELS VERNE COFFEEにて著者撮影

■誕生・そして少年期(0歳~15歳)

ジュール・ヴェルヌは、1828年2月8日、フランス西部の港町・ナントで誕生しました。

当時のナントは、16世紀からの交易で栄えた、フランス貿易の中心地。産業革命の勃興期に誕生したヴェルヌは、さまざまな国から来た船や、異国の品物に囲まれ、少年期を過ごしました。

彼は当時から、その後の作品のテーマとなる「冒険」への憧れを持っていました。当時の活気のあるナントで過ごしたことを考えれば、当然ともいえるでしょう。ある日ヴェルヌは、西インド諸島に向かう貿易船に乗り込み、父に怒られた経験もあるのだとか。

このときに母に向かい「これからは夢のなかだけで旅をします」と約束したという逸話が残っていますが、その言葉通り、彼は夢の中で壮大な冒険を繰り広げることとなります。そして、後にその“夢の旅”は、世界中の人をも楽しませるのです。

■青年期~劇作家時代(16歳~35歳)

本を読むのが趣味だったヴェルヌは、16歳のときに詩と演劇に出会い自らで詩と戯曲を書き始めるようになります。20歳になり、パリの大学に送り込まれてからは、より多くの作品や人物と出会いました。

家庭教師や秘書などの仕事も経験しつつ、劇作家としての仕事を続けたヴェルヌ。35歳のとき、それまで大きな成功をできていなかったヴェルヌは、戯曲から「小説」へのキャリアを考え始めました。

図書館に通い、自然科学を学ぶようになったのもこのころだったと言われています。

■編集者・エッツェルとの出会い、ブレイク(35歳~)

「科学小説」というジャンルを考え、それまで図書館で読みあさっていた探検記、新発明に関する記事、地理や自然科学などの文献を惜しみなく盛り込んだ原稿を書き上げたヴェルヌ。

数社の出版社に原稿を送っても断られ続けたものの、そこで運命の出会いがありました。それが、後にヴェルヌを人気作家へと導く、編集者ピエール・ジュール・エッツェルでした。

エッツェルは、ヴェルヌの原稿に対して書き直しこそ命じたものの、「科学小説」という方向性については理解を示し、ヴェルヌの「SF作家」としての才能を開花させたと言われています。

そうして生まれたのが、ヴェルヌの初のヒット作『気球に乗って5週間』(1863年)。ここからヴェルヌは売れっ子作家としてのキャリアを歩むこととなったのです。

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のちにこの2人の関係については、“作家と編集者、この役割分担(システム)を創始したのは、ヴェルヌとエッツェルだった。”と評されています。(※)『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険 ジュール・ヴェルヌとピエール=ジュール・エッツェル(流動する人文学)』 (出版社:左右社)より

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ヴェルヌが『気球に乗って五週間』に続いてエッツェルに見せた、『Paris au XX siecle』は「20年後に書き直しなさい」と出版に至らず。同著はそれから100年の時を経て、「未発表原稿」という形で出版されました。邦題は『20世紀のパリ』。(※)『20世紀のパリ』(出版社:ブロンズ新社)より

預言者ヴェルヌと「科学技術」

ヴェルヌの書く作品にはどれも、当時にはない技術がいくつも盛り込まれていたために、現代の私たちがそれらを読み返すと、彼の作品はまるで「予言書」のように見えます。

たとえば、『海底2万マイル』には、世界の海を暴れ回るだけの高性能潜水艦が登場しています。この作品が世に出たのは、1869年~1870年のことでしたから、これは日本で言うところの明治3年のことで、もちろん当時潜水艦は本格的に登場しておりませんでした。

ちなみにこの潜水艦、名前を「ノーチラス号」というのですが……、もしかすると皆さんもこの船に、乗り込み、海底への冒険へと旅立った経験があるかもしれません。

お気づきの方も多いかと思いますが、東京ディズニーシーのアトラクション『海底2万マイル』で乗り込む船こそがこのノーチラス号です。

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東京ディズニーシー「ミステリアス・アイランド」。写真は『海底2万マイル』の世界観によるもの。浮かぶ船は、作中にも出てくる船「ノーチラス号」

ほかにも、1865年に発表された『月世界旅行』においては、タイトル通り「月への旅行」の物語が記されています。

旧ソ連が、史上初の有人宇宙船(ボストーク1号)を打ち上げたのは、その約1世紀後の1961年のことでしたから、そのタイミングの早さは理解できることでしょう。なお、ヴェルヌが書いた方法は“砲弾に人を載せて巨大な大砲で月へ往復する”という(今考えると)奇想天外なものではありましたが。

とはいえ、このときの脱出速度などに関する計算は非常に緻密に行われており、それらは、その後の20世紀のアポロ宇宙船の月旅行と同等の速度・時間と同等だったと言われています。もちろん、宇宙空間における「無重力状態」も描かれることとなりました。

ヴェルヌが「SFの父」と呼ばれるようになったのは、小説の中に当時は未達だった科学技術をふんだんに盛り込んでいたためです。

【名言】「人が想像できることは、必ず人が実現できる。」ジュール・ヴェルヌ

さて、ジュール・ヴェルヌの名言として、以下の言葉が良く知られています。

“Anything one man can imagine, other men can make real.”
「人が想像できることは、必ず人が実現できる。」

ぶっちゃけた話、この言葉は“本人のものではない”という説もあります。

しかし、先に紹介した『20世紀のパリ』で、18世紀を生きる彼が20世紀の人々の生活や暮らしを想像して描いた予見性は凄まじく、現代を生きる我々が怠けさせてしまっている「想像力」を確認させてくれるものであります。

この言葉が彼が直接発したものではなかったとしても、“彼らしく”かつ“彼が言うからこそ説得力を持つ”言葉であることは確かでしょう。

【小説/本】ジュール・ヴェルヌの代表作/おすすめ作

さて、せっかくなのでジュール・ヴェルヌの代表作やおすすめ作について紹介します。興味のある方は是非、手に取ってみてください。

■『十五少年漂流記』

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■『海底二万マイル』

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■『月世界へ行く』

■『八十日間世界一周』

■『オクス博士の幻想』

■『悪魔の発明』

■『地底旅行』

■『緑の光線』

ジュール ヴェルヌの映画化作品

ジュール・ヴェルヌの作品の中で、映画化・映像化されているものを集めました。

■『悪魔の発明』(1950年代)

1950年代、チェコのカレル・ゼマンによって "Vynález zkázy" (致命的な発明/破滅的な発明の意)として映画化。この映画は日本にも紹介された。その際のタイトルは直訳の『悪魔の発明』であり、映画が先に有名になったため、小説版の日本語題も『悪魔の発明』が一般的となった。(※下記Wikipediaページより引用)

■『アトランティス 失われた帝国』(2001年/アメリカ)

ウォルト・ディズニーが生誕100周年を迎えた2001年に公開されたディズニー製作のアニメーション映画。続編として『アトランティス 帝国最後の謎』が販売用ビデオ作品として2003年に発表されている。(※下記Wikipediaページより引用)

■『海底二万哩』(1954年/アメリカ)

『海底二万里』をウォルト・ディズニーが映画化した作品。日本におけるBVHE版から発売されたソフトは『海底2万マイル』、ポニー版・バンダイ版から発売されたビデオは『海底20000マイル』のタイトルで発売されている。(※下記Wikipediaページより引用)


■『海底六万哩』(1916年/アメリカ)

サイレント映画。監督はスチュアート・ペイトン。原作はジュール・ヴェルヌの『海底二万里』だが、『神秘の島』の要素も加えられている。2016年、アメリカ議会図書館は「文化的、歴史的、審美的に重要」なものとして本作をアメリカ国立フィルム登録簿に保存した。2009年、有限会社フォワードは『海底6万マイル』と改題してDVDをリリースした。(※下記Wikipediaページより引用)

■『カトマンズの男』(1965年/フランス・イタリア)

フィリップ・ド・ブロカ監督、ダニエル・ブーランジェ脚本、ジャン=ポール・ベルモンド主演によるの映画。原作はジュール・ヴェルヌの小説『必死の逃亡者』であるが、ブロカは非常に自由な解釈をしている。(※下記Wikipediaページより引用)

■『月世界旅行』(1902年/フランス)

フランスのジョルジュ・メリエスが脚本・監督した、モノクロ・サイレント映画。1秒16フレームで、14分の作品。原作はジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』だが、この作品を大幅に簡略化し、変更を加えたものである。後半の月人のエピソードはH・G・ウェルズの『月世界最初の人間』(1901年)が基になっている。(※下記Wikipediaページより引用)
世界初のSF映画とされており、映画史を語る上で必ず登場する重要な作品の一つである。本作品は著作権が切れパブリックドメインとなっているため、インターネット上で動画を視聴することができる。(※下記Wikipediaページより引用)

■『センター・オブ・ジ・アース』(2008年/アメリカ)

ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』を原作とする全編3D映画。デジタル上映による実写のフル3D映画としては、日本で初めての全国公開作品である。『キャプテンEO』や『ミクロアドベンチャー!』を制作したエリック・ブレヴィグが監督を務めている。(※下記Wikipediaページより引用)

■『センター・オブ・ジ・アース2 神秘の島』(2012年/アメリカ)

2012年のアメリカ合衆国の冒険ファンタジー映画。2008年の映画『センター・オブ・ジ・アース』の続編である。ジュール・ヴェルヌの『神秘の島』などに題材を得た3D映画。(※下記Wikipediaページより引用)

■『地底探検』 (1959年/アメリカ)

ジュール・ヴェルヌの小説『地底旅行』を初めて映画化した作品である。ビデオパッケージでは『地底探険』という表記も存在する。(※下記Wikipediaページより引用)

■『ネモ船長と海底都市』(1969年/イギリス)

ジュール・ヴェルヌの創造したネモ船長が登場する作品である。(※下記Wikipediaページより引用)

■『八十日間世界一周』 (1956年/アメリカ)

第29回アカデミー賞にて作品賞を始めとした5部門を受賞。(※下記Wikipediaページより引用)

■『リーグ・オブ・レジェンド/時空を超えた戦い』(2003年/アメリカ)

アメコミ作品『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』を原作とした映画。2003年に20世紀フォックスにより、スティーヴン・ノリントン監督で映画化された。原作とはほぼ別物になっている。ジュール・ヴェルヌ作『海底二万里』と『神秘の島』の主人公である、ネモ船長が登場している。ノーチラス号の艦長で自身も腕の立つ武芸者。原作小説および本作の原作コミックの人間嫌いの孤高の存在とは異なり、チームに対しては比較的に好感的。(※下記Wikipediaページより引用)

※本作、ネモ船長とノーチラス号がイケてる感じで描かれている作品ですし、比較的新しい作品ではあるのですが、正直“煮え切らない”映画ですので、あまりおすすめしません。(筆者個人の感想です)

■『竜宮城 (映画)』(1929年/アメリカ)

ジュール・ヴェルヌの1874年の小説『神秘の島』に基づいて、ルシアン・ハバードが監督したSF映画。大部分が二色法テクニカラーで撮影され、メトロ・ゴールドウィン・メイヤーから、一部のシーンで会話や同期した音楽、音響効果などが聞かれるパート・トーキーとしてリリースされた。(※下記Wikipediaページより引用)

出身地のフランス・ナントには「博物館」と「遊園地」 が?

ヴェルヌの出身地であるフランス・ナントには、博物館と遊園地があるようです。

博物館にはヴェルヌの著作、写真、手紙や生前使用していた文具や家具(肘掛け椅子や振り子時計など)などが展示されているそう。

また、ナントに拠点を置くクリエーター団体の「ラ・マシーン」によるアミューズメント・パーク「レ・マシーン・ド・リル(Les Machines de l’île)」では、ヴェルヌが『蒸気の家』(1880年)で描いた、「家を牽引する蒸気動力の象」をはじめとした、さまざまな生き物が再現されているとか。

これ、めちゃくちゃ気になりますね……。

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画像手前が「家を牽引する蒸気動力の象」。象の上に人が乗っているのが見えます

【おまけ】高円寺の「ジュール・ヴェルヌ・コーヒー」

さて、ジュール・ヴェルヌについていろいろと調べていると、高円寺に「JULES VERNE COFFEE」というカフェがあるとわかったので、せっかくなので行ってきました。

どうやら店主さんがジュール・ヴェルヌを大好きならしく。「冒険」をテーマにしたような、非常に良き空間でしたので、是非興味のある方は足を運んでみてください。

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【まとめ】ヴェルヌは「想像力」の価値を再確認させてくれる

以上、ジュール・ヴェルヌという人物および作品についてまとめました。正直、彼についてはより詳述された本が多数存在しているため、本記事は「入口」程度に捉えてもらえばよいのかな、と思います。それほどに、「深みのある人物」という訳です。

死後100年以上経ってもなお、彼のことを研究し続けている人がいれば、彼の作品のファンもいれば、こうして私のように、彼を調べて発信する人もいる。この現状こそが、彼が多くの人に愛されている確固たる証拠でしょう。

「SFの父」ことジュール・ヴェルヌ。その作品に影響を受けた人は数多くいることでしょう。彼がいなければ、彼の作品が普及しなければ、日の目を浴びなかった技術も数多くあるかもしれません。

“Anything one man can imagine, other men can make real.”
「人が想像できることは、必ず人が実現できる。」

物語って、人間の想像力って偉大だなぁ、と改めて感じさせてくれる人物ですね。

【おしまい】

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