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慢性肩関節痛に対するデジタル遠隔理学療法は対面の理学療法と同様に用いられる


抄読文献

Sang S Pak, Dora Janela, et al. :
Comparing Digital to Conventional Physical Therapy for Chronic Shoulder Pain: Randomized Controlled Trial.
 J Med Internet Res. 2023; 25: e49236.
PMID: 37490337 PubMed DOI: 10.2196/49236.
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ー慢性肩関節痛に対するデジタル理学療法と従来の理学療法の比較: ランダム化比較試験ー

要旨

【背景】

慢性肩関節痛(CSP)は、腱板障害、癒着性関節包炎、肩関節不安定症、肩関節炎など様々な病因を持つ一般的な疾患である。慢性肩関節痛は、かなりの身体障害と心理的苦痛を伴い、生産性と生活の質を低下させる。理学療法はCSPの主な治療法であるが、ケアへのアクセスにはいくつかの障壁が存在する。近年、このような障壁を克服する潜在的な解決策として、遠隔リハビリテーションが勢いを増している。遠隔リハビリテーションは、アクセスや利便性の向上、患者のアドヒアランスの促進、コストの削減など、多くの利点を示している。しかしながら、これまでのところ、非手術的CSPに対する完全遠隔デジタル理学療法と対面リハビリテーションを比較したランダム化比較試験は行われていない。

【目的】

本研究の目的は、CSP患者におけるデジタル理学療法と従来の対面理学療法の臨床転帰を比較することである。

【方法】

外来理学療法に紹介されたCSP患者82人を対象に、単一施設並行群間無作為化比較試験を実施した。参加者はデジタルまたは従来の理学療法(8週間の介入)に無作為に割り付けられた。デジタル介入は、自宅での運動、教育、認知行動療法(CBT)で構成され、バイオフィードバックのための運動デジタル化装置と、クラウドベースのポータルを介した理学療法士による非同期モニタリングが用いられた。従来群は、エクササイズ、手技療法、教育、CBTを含む対面理学療法を受けた。主要アウトカムは、Disabilities of the Arm, Shoulder, and Hand questionnaire(DASH;上肢機能評価表)の短縮版を用いた機能および症状の変化(ベースラインから8週まで)であった。副次的アウトカムは、自己申告による疼痛、手術意向、鎮痛薬摂取、精神的健康、関与、満足度などであった。すべての質問票は電子版にて行われた。

【結果】

計90名の参加者がデジタル群または従来群に無作為に割り付けられ、82名が割り付けられた介入を受けた。両群とも、DASHによって測定された機能において有意に改善したが、群間に差はみられなかった(-1.8、95%CI -13.5~9.8;P=.75).副次的アウトカムについては、手術意向、鎮痛薬摂取、精神的健康、疼痛に差は観察されなかった。従来群では平均疼痛と最小疼痛で高い減少が観察されたが、効果量が小さいことから(最小疼痛0.15、平均疼痛0.16)、臨床的に意味があるとは考えにくい。アドヒアランスと満足度は両群とも高く、有害事象はみられなかった。

【結論】

本研究は、デジタル遠隔理学療法が、拡張性と有効性を考慮するならば、対面理学療法と同様に、CSPのためのケアモデルとして実行可能であることを示した。

要点

  • デジタルにて遠隔理学療法が行うことができる

  • 遠隔になることで、ドロップアウト率や物理的障壁が取り払われる

  • 慣性センサーの使用により、動きをアプリで管理できるシステムを用い、リモートでも運動を確認し、誘導することができる

  • 従来の対面理学療法と同様にDASHや疼痛の軽減が得られた。

  • 介入頻度・時間はデジタル群の方が多い結果となった

どのように活用するか

遠隔診療の是非は多く問われている。
その中で、慢性肩関節痛というこれまで物理的に扱う、つまりモビライゼーションなどの徒手的な治療を主体として行なっているものに対して、遠隔治療の有効性が示された論文になる。

疼痛は機械刺激による疼痛のみでなく、精神、心理的要因による疼痛も多く考えられ、その点に関しては遠隔でも十分治療対象になることが示された。

ただ、従来と同等ということが証明されたに過ぎず、それ以上の効果や他の要因との関連などはまだ不明なところである。
RCTにより交絡は取り除かれているものの、対象者やシステムの使用の精通度合いなどによって、変化する可能性があることは否めない。

一方、慣性センサーで動きを管理するシステムなど、新たな機器、視点を導入していることは非常に興味深い。

ダイレクトアクセスのない本邦において、どれほど適用できる仕組みになるかは難しい点もあるが、エッセンスとして取り入れていきたいところではある。

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