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肩挙上面によって肩甲上腕リズム、肩甲上腕関節の動態は変化する


抄読論文

Giphart JE, Brunkhorst JP, et al.
Effect of plane of arm elevation on glenohumeral kinematics: a normative biplane fluoroscopy study.
J Bone Joint Surg Am. 2013 Feb 6;95(3):238-45.
PMID: 23389787. PubMed. doi: 10.2106/JBJS.J.01875.
上肢の挙上面が肩甲上腕運動学に及ぼす影響:バイプレーン透視法による規範的研究

要旨

【背景】

正常および病的状態における肩甲上腕関節の動きを理解するためには、肩の運動学的特性を正確に測定する必要がある。腕の挙上平面が肩甲上腕関節の並進と回旋に及ぼす影響については、未だ不明な点が多い。本研究の目的は、健常人の腕挙上時の上腕骨の3次元的な並進と回旋を測定することである。

【方法】

8名の男性被験者に肩甲骨挙上と前屈を、5名の被験者(男性3名、女性2名)に外転を、動的バイプレーン透視システム内で行ってもらった。CT画像から骨の形状を抽出し、個々のフレームにおける上腕骨と肩甲骨の3次元的な位置と向きを決定するために使用した。肩甲上腕関節の回転と平行移動について記述統計量を求め、肩甲上腕リズム比を算出するために線形回帰を行った。

【結果】

肩甲上腕リズム比は外転2.0±0.4:1、肩甲挙上1.6±0.5:1、前屈1.1±0.3:1であり、前屈の比は外転の比より有意に低かった(p = 0.002)。上腕骨頭の偏位は外転で最大(5.1±1.1mm)、肩甲骨側屈で最小(2.4±0.6mm)であった(p<0.001)。線形回帰の傾きによって決定される並進の方向は、前屈時(0.1±10.9mm/90°)と比較して外転時(-2.1±1.8mm/90°)でより劣っていた(p = 0.024)。

【結論】

肩甲上腕リズムは、腕の挙上平面が外転から前屈へ前方弧を描くように移動するにつれて有意に減少した。生理的な肩甲上腕関節の伸展量は挙上平面によって有意に変化し、肩甲骨挙上時に最も小さく、外転時に一貫して下方に移動することを除いては、被験者間で一貫性のないパターンを示した。

要点

肩甲上腕関節の動きに関しては、上肢の動作によって様々な動きが生じる。
単純に屈曲・伸展、内転・外転、内旋・外旋のみでなく、関節包内の並進運動など様々な動きが生じる。
それらの動きを把握しておくことは、関節炎や腱板損傷など関節組織の損傷を発生させないようにする意識を高めていくことにつながる。
肩甲上腕リズムに関しては、古くInmanらが2:1と提唱して以来、ずっと定説とされている。
新たな技術の発展により、1.25:1という報告から、5.3:1という報告まで幅広いものとなっている。
本研究では、肩甲上腕リズムをin vivoにて改めて検証するとともに、前方挙上といった、異なった面での運動に関しての肩甲上腕リズムも検討している。

本研究では、挙上を前額面での挙上、いわゆる外転肩甲骨面scapular planeでの挙上として前額面より40°程度前方で行う挙上、矢状面上での挙上、いわゆる屈曲とに分けて検証している。
結果として、外転ではInmanの報告と同様に2:1となった。
肩甲骨面挙上では1.6:1、屈曲では1.1:1と前方になるに従って、肩甲骨の動きによる割合が増加していた。
いわゆるゴール地点の挙上180°の時点では、前額面上での移動と、矢状面上での移動によって、肩甲骨の上方回旋の度合いが異なることを意味する。
これには、肩甲骨の後傾の要素も加わっているかもしれない。本研究ではその点は検証されていない。


本研究では、肩甲骨面と上腕骨の位置関係も測定している。
肩甲棘の直線上をラインとして上腕骨が前方・後方のどこに位置しているかを測定している。
これは当然であるが、前方屈曲時は突出して、前方に位置している。
ここでは、着目するところとして、外転、肩甲骨面外転の時の動きかと思う。
挙上20°、つまり挙上の初期時には軽度前方に位置しているが、90°になると後方に位置し、挙上最終域になってくると再び前方に近づくという点が興味深い。
つまり、関節窩に対して一定の動きを生じているわけではなく、前後方向のスライディングやローリングが生じていることになる。
これが、関節負荷につながる可能性もあり、注視すべき点かと思う。


さらに、関節窩に対する骨頭の移動に関しても測定している。
関節窩の中心に対して、骨頭がどのような位置にあるかを測定したものになる。
注目すべきところは、外転時には骨頭の上下移動幅が大きく、特に挙上角度が上がるほど、下方に変移しているということになる。
つまり、骨頭を求心位に保つための腱板機能や靭帯などの下方構成組織の堅牢性が重要になってくると解釈する。
また、前後方向の変移では、移動幅は大きく変わらないものの、外転と前方屈曲で変移する戦略が違ってくるということが注目すべきである。
前方屈曲では挙上につれて前方変移を徐々にしていくのに対して、外転では初期と最終で後方に変移するという、2峰性の動きを生じているということになる。
つまり、外転では、挙上の過程で、前後の動揺が繰り返すことになる。

どのように活用するか

肩関節における細かな関節運動の動態を知ることは、診療していくにあたって、着目する観点を増やし、介入への引き出しを増やしていくための有益な情報になる。

肩甲上腕リズムは基本的には外転時の動きを表しており、前方挙上時のものを測定した報告は少ない。
その中で、本研究では前方挙上も測定しており、結果として前方になるにつれて、肩甲上腕関節自体の寄与は少なくなるというものであった。
これから、肩甲骨の胸郭面上での動きの重要性を判断することができ、肩甲骨の動きの評価を十分にしておく必要を示唆する。
また、肩甲骨の動きを評価していくにあたって、前方挙上を有効に活用していくことが大事になってくる。

上腕骨頭の移動に関して、特に上下方向の動きが外転で強くなる要素があり、外転時の関節面への負荷が高まることも予測される。
しかし、考察にもあるが、これらの動きは数mmというわずかな動きであり、徒手的に判断可能かどうかは疑問である。
ただ、その点の認識はもった上で、観察していくことは重要であろう。

このような関節動態を一つ一つ知っていくことは、総合的に症状を判断する上で、重要な要素となり、今後他の知見も含めて知っておく必要があるであろう。

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